意外と重いのよね……
あの朋子が自殺したなんて。
彼女にはいろいろ言いたいことも、聞きたいこともあった。
けど今になってはもう、それもかなわないし、いっそどうでもいいことのような気もしている。
謂れのない憎しみを正面からぶつけてきた彼女。
理解し合えるなんて、そんな綺麗事は一度も考えたことはない。
向こうがこちらを憎むのと同じように、こちらだって彼女を憎んできた。
社長に取り入って愛人の立場に居座り、旅館のことを好き勝手に采配してきた朋子。だた、業務スキルという意味では誰にも負けない自負があった美咲は、彼女に対して嫉妬を覚えたことはない。
今にして思えば、朋子は哀れな人だったという評価になるだろう。
彼女に意識があって、美咲の口からその言葉を聞いたら、どんな反応をするだろうか。
里美が病院から朋子の死亡について連絡を受けて飛び出していったのとほぼ同時に、和泉がそれを追うかのように走って行ったのを、美咲は見た。
その顔色も様子も尋常ではなかった。
周はまだ起きているだろうか。
そう思って、いったん実家に行ってみることにした。
実家と言っても名ばかりだ。実の父は母と結婚してすぐに、広島市内に家を借りた。少しでも社長である兄と離れたかったに違いない。
父と死別した母も、こちらに戻ってからずっと従業員寮で暮らしていた。
だから美咲は実家と言っても、どこに何があるのかさっぱりわからないのだ。
社長である伯父はどこに行っているのかしらないが、滅多に家に寄りつかない。
玄関を開けると2階の部屋から明かりが漏れていることに気付いた。
美咲は階段を上がって、客間を開けた。
賢司が炬燵に入ったまま眠りこんでいる。彼の傍にはプリンが横たわっていた。
三毛猫は美咲に気付くと身体を起こし、足元に擦り寄ってくる。
「ちょっと賢司さん、そんなところで寝たら……風邪を引くわよ?」
肩を揺すってみる。
起きる気配がない。
ただでさえ具合が悪いくせに、風邪を引いたりしたら困る。周はもう寝たのだろうか。
「……姉さん?」
半分寝ぼけたような顔の周がやってきた。パジャマを着ているということは、寝かけていたのだろう。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いや、眠れなくて……」
弟は兄の姿を見て、はっきり目を覚ましたようだ。
「周君、手伝って」
2人でどうにか賢司を起こして布団に連れて行く。
布団が冷たかったせいか、一瞬だけうっすらと目が開いたが、すぐに閉じられた。
「ねぇ、周君。実はね……」
ついでだから、美咲は周に女将からの言伝てを話した。
周はやや戸惑った顔をしていたが、最後にはわかったと頷いた。