結局、あのバカ息子はどこへ行ったんだ?!
昔もそう、同じことを言われたのを思い出す。
つい泣いてしまいそうになって、聡介は思わず手で口元を覆った。
娘のおかげですっかり気持ちが楽になった。
「……ありがとう、さくら。おかげで元気が出たよ……」
『それなら良かった。ところで、ねぇ……お父さん。和泉さんは今一緒にいるの?』
バカ息子の名前が出てきて、聡介は一気に現実へ引き戻された。
「あのバカはどこで何をしているのか知らないが、朝からずっと姿が見えないんだ」
『実は今日、和泉さんとお会いしたのよ』
「え……?」
和泉は尾道に行ってきたのか?
『あの、ほら……優作さんが見ていた旅館の、仲居頭の方の件で』
思い出した。確か名前は米島朋子。
先日、監房の中で自殺を図ったと聞いた。
そして今日、ついに息絶えたとも。
「ああ、覚えているよ」
『なんていうか、少し様子がおかしかったの』
「どういう意味だ……?」
『上手く説明できないんだけど、とにかく……元気がないって言うか。いつもならニコニコして、冗談言ったりするのに……。それはもちろん、お仕事のことだから真剣にお話しされるとは思うけど、どこか虚ろっていうか……車で来られてたから、無事にそっちへ帰れたかな? って』
「朝に会って以来、顔を見ていないぞ?」
急に聡介は心配になってきた。
いったん娘との通話を終え、急いで交通課に問い合わせてみる。
とりあえず、事故の記録はなかった。
いそいで和泉の携帯電話にかけてみる。
しばらくして、
『は~い、和泉彰彦の携帯電話でーす』
などと、呑気な男性の声が聞こえてきた。
「……誰だ?!」
『彰ちゃんなら、心配しなくても生きてるわよ。ただちょっと、今は【生ける屍】状態だけどね』
「あなたはいったい、どなたですか? 彰ちゃんというのは、和泉のことですか?!」
『アタシ? アタシは彰ちゃんの元カレ。あなた確か、高岡聡介警部よね?』
誰だ?
自分のことを知っているということは、警察関係者だろう。
『やぁね。一度会って挨拶したのに……忘れたの?』
思い出した。
あの妙なしゃべり方をする、特殊捜査班の隊長だ。
「今、彰彦はどこにいるんですか?」
すると突然、電話の向こうは黙り込んだ。
「もしもし……?」
『今夜一晩ぐらいは、そっとしておいてあげた方がいいわ。もし彼があなたを必要とするなら、迷わずにこっちから連絡するから。たとえ夜中だろうが、明け方だろうが』
一方的に通話は切れた。




