一歩間違えればセクハラですからね
そう言う訳で昼の時間、聡介は和泉と連れだって外に出た。
「聡さん。皆の前で、うさこちゃんにああいうことを訊くのはダメですよ。デリカシーがありません」
「そ、そうか……それは悪いことをしたな」
全然気付かなかった。
「じゃ、お詫びに奢ってくれますよね?」
「その理屈はおかしい。どうでもいいが、彰彦。お前は俺の知らないところで悪さしてないだろうな? ギャンブルとか女遊びとか」
和泉はとんでもない、という表情でこちらを見つめてきた。
「何を言ってるんですか、聡さん。僕には決まった相手がいるんですよ? 周君っていう、スウィートハニーが」
「……向こうはなんて?」
すると和泉は両手で顔を覆った。
「普通に気持ち悪いからやめろ、って」
「……当然だな」
「ひどいや、聡さんまで! 忘れたい悲しい記憶を思い出させて、残酷だ!!」
ああ、面倒くさい。
そしていつもの店に落ち着く。
「……もしかして、誰か、ヤクザとつながっていることが発覚しましたか?」
和泉はおしぼりで手を拭きながら、さりげなくそう訊ねてきた。
「……まぁ、そんなところだ」
「そんなのは監察の仕事ですよ。聡さんは自分の部下を信じてください」
わかっている。
ふと、聡介は思い出したことがあった。
「あ、そういえば……来週からHRTのメンバーが同じ部屋を使うことになるから、机の上とまわりを綺麗に掃除しておけよ?」
つい先日の事件の折り、いち早く協力を申し出てくれた特殊捜査班の隊長は、長い間アメリカに研修へ行っていたらしい。
HRT。Hostage Rescue Teamの略称である。
人質立てこもり事件、誘拐事件、テロ事件。そういった特殊な事案を扱う刑事達は捜査1課の所属ではあるが、聡介達強行犯係とは扱う事件の性質が異なる。
何と言ってもその部隊の刑事達は全員、屈強だ。
今は特殊捜査班専用の詰め所を建設中で、そこが完成するまでは聡介達捜査1課が使用している刑事部屋に同居するのである。今朝、課長から言われた。
その隊長の名前は確か……。
「へぇ、HR……え?!」
「名前、なんて言ったかな。研修でアメリカに行ってた隊長が帰国したらしい。ほら、こないだの……お前も、古くからの知り合いだって言ってたじゃないか」
「ま、まさか、北条警視……?」
「ああ、確かそんな名前だ」
なぜか和泉の顔が真っ青になった。
「なんで……? こないだのは一時帰国だって……聞いたような……って、あれ。もしかして僕の希望的観測だった……みたいな……?」
「おい、どうした。大丈夫か?」
「なんでそんなこと承諾したんですか?! ぼ、僕、あの人と同じ部屋になるぐらいなら、いっそ離島の駐在所勤務の方がマシ……!!」
「どうしたんだ? 嬉しくないのか」
「嬉しい訳がないでしょう!?」
和泉はガタン、と立ち上がる。
「落ち着け。座り直せ、みっともないだろうが……」
まわりの客達が何ごとか、とこちらを見る。
「ど、ど、どうしよう? ねぇ?! 聡さん!!」
それからなぜか、息子は聡介に縋りついてきた。
「落ち着け、何があったんだ!?」
「あの人、無理矢理地獄の筋トレメニューに僕を付き合わせるんですよ?! そんなの毎日続いたら、絶対に死んじゃいます!!」
「筋トレか……俺も少しはやらないとな」
しばらく運動らしい運動をしていない。
「そんな生易しい話じゃありませんて!! ねぇ、聡さん、お願いだからその話、すぐに断ってください!!」
「無理を言うな、上が決めたことなんだぞ。だいたい……」