今時、そんなの流行らないわよ。
それからしばらくは、刑事達が聞き込んできた被害者の足取りなどが取り上げられた。
死亡推定時刻前後の目撃情報はなし。現場は暗くなるとほとんど人通りもない、寂しい場所であるため、有力情報を得るのは難しい。
他に、と声がかかって結衣ははた、と顔を挙げた。
自分が聞き込んできたことを発表しなければ。
手を挙げて発言を求める。大石課長と目が合った。
課長はコソコソ、と隣に座っている管理官に耳打ちする。またか。
結衣が何度手を挙げても、なかったことにするのだ、あの人は。
どうせ『無視していいですよ』とか言っているに違いない。
あの課長は『女のくせに』
二言目にはこれである。
他の刑事は誰も手を挙げていないのに、声がかからない。
すると。
「横尾管理官、こちらの女性刑事が手を挙げています。発言させてあげたらどうでしょう」
後ろから男性の声が聞こえた。
結衣の座っている席は後ろから2番目。ということは、一番後ろの席に座っている刑事ということだ。振り返りたかったが、ぐっと我慢する。
課長はあからさまに嫌な顔をしたが、管理官はもう少し大人だった。
「なんだ? 言ってみろ」
「は、はい……!! ガイシャが宿泊していた宮島の【御柳亭】という旅館で、客室を担当した仲居から話を聞くことができました。午後6時半……夕食の時間帯ですが、突然、外に飛び出して言ったそうです。直前に電話がかかってきて、少し遣り取りをした後に出かけて行って、そのまま朝まで戻らなかったそうです」
ざわ……と会議室にどよめきが起きる。
「なお、ガイシャには連れの女性がいました。女性の方はガイシャが戻って来ないというのに、それほど心配した様子もなく、警察への届け出を拒否していたそうです。仲居の話によると、恐らく出会い系サイトか何かで知り合った相手ではないかと。それと、財布を部屋に置いて行ったそうです」
「財布を置いて行った……」
管理官は考える顔になった。
「しかし、ガイシャは本土に戻ったという記録がある。フェリーにタダで乗れる訳ではないだろう」
「小銭入れは別に持っていたかもしれません。フェリー代はたかが180円ですから」
「連れの女はどんな?」
結衣はスケッチブックを持って行って管理官に渡した。
管理官は部下に命じ、全員が見ることができるようにとスクリーンに映し出させた。
「……なぜ、2枚あるんだ?」
「1枚目はすっぴん、2枚目は化粧をした後の顔です」
まるで別人だな、と管理官は呟き、一部の刑事達の失笑を買った。
「管理官、あれでしょうか。痴情のもつれ。この連れの女が、ガイシャと何かトラブルになって……」
課長は嬉しそうに言った。
この人はそういう『痴情のもつれ』ネタが大好きなのだ。
管理官はそれをさらりと無視し、
「被害者の携帯電話は見つからないのか?」
「現在、通信会社に履歴を照会できるよう裁判所を通して依頼済みです」
刑事の1人が答える。
「よくやった。よし、では被害者の足取りを宮島にも広げて、引続き聞き込みを徹底しろ。それから、ガイシャの交友関係……徹底的に洗い出せ!!」
会議は終了。
本日は解散となった。
結衣は後ろを振り返り、さっき助け舟を出してくれた刑事に礼を言おうとした。
が、誰もいなかった。