必ず、ホシを挙げる!! とか、言わないんだ?
上司と同僚が黙りこんでしまったので、仕方なく結衣は会議室の隅っこに腰を下ろして報告書をまとめることにした。
今まで聞いてきた情報から、いろいろなことがわかった。
これから始まる会議で上手くまとめて発言できるだろうか。
捜査一課長と管理官、宇品東署長が入室し、刑事達は全員起立する。
それからいつもの儀式が始まって、会議が始まる。
捜査一課長はいけ好かない、いつもの大石警部だが、管理官はわりと評判のいい横尾警部だ。
いつものことだが、木偶の坊の1課長は会議の際に発言することは少ない。
司会進行を進めるのは管理官の方だ。
「えー、被害者の氏名は若尾竜一。36歳。住所は東京都江戸川区西葛西3丁目……職業、フリージャーナリスト。現在のところは東京江東区にある『公瑛出版』という出版社と専属契約を結んでおり【旅まる】という旅行雑誌の記事を書いている。ただし、有名人や芸能人のスキャンダルネタを見つけては週刊誌を発行する大手出版社に売り込む、などもしていたそうだ」
パパラッチ。結衣はメモを取りつつ、ノートの隅にそう書き込んだ。
「死体遺棄現場付近に争った形跡、またガイシャの血痕が発見された。直接の死因は後頭部打撲による脳挫傷……凶器と思われるものはまだ発見されていない。すぐ近くが海ということで、投げ捨てたのかもしれん」
凶器は未だ発見できず……。
まさかこの寒い季節に、海に潜って捜索とかないよね?
結衣は寒気を覚えた。
「死亡推定時刻は26日午後10時から12時の間。なお、所持品は免許証以外になし。貴重品などの一切は持ち去られたか、海に捨てられたかと思われる……それから……鑑識、報告を」
鑑識課の相原警部補が立ち上がる。
「解剖の結果ですが、ガイシャの胃は空っぽでした。死亡推定時刻から考えて、殺害されるまでまったく夕食を摂らずに過ごしていたと思われます。それからゲソ痕(足跡)ですが……少し妙なんです」
「妙? どういうことだ」
「おそらく賊は複数です。その内の1人はもしかすると、足の悪い人間かもしれません」
「なぜそう言える?」
「やや、引き摺ったような跡がありました。それから杖の痕。まさか、杖をついて歩くような老人がホシとも思えませんがね」
「わからんぞ。渾身の力を振り絞ったか、あるいは何か策を弄して……」
管理官の言葉を上っ面だけ聞き、結衣は今朝、藤江周から聞いた話を思い出していた。
『あの男の人、俺の記憶違いじゃなければ……前にも見たことあるんです。ほら、こないだドイツ人男性が殺された事件あったでしょう? 犯人と……その協力をしてた人をつけ回していたカメラマンがいて……』
その情報は初耳だった。
しかしまぁ、パパラッチならそれもありだろう。
結局、いろいろ知り過ぎた結果、口を封じられたということだろうか。
果たして被害者は何を知ったのだろう?




