誰だって、関わり合いになんてなりたくないよね。
このスーパーには食料品と日用雑貨しか置いてない。妹が興味を持つお菓子売り場にもいないということは……。
智哉は思い切って外に出た。
見つけた。
「絵里香!!」
「お兄ちゃん!!」
彼女の傍には見たことのない、知らない男がいた。
もちろん、変質者が自分は怪しい人間だと名札を付けている訳ではないが、見るからに怪しい人相風体をしている。
男は舌打ちをして絵里香の身体を抱え上げると、駐車場に向かって走り出す。
智哉は必死でそれを追いかけた。
胸の内で『友永さん!!』と、助けを叫び求めながら。
「誰か、誰か助けてください!!」
思い切って智哉は叫んだ。
幾人かが振り返ったが、どうしたのかと声をかけてくれる人は誰もいない。
「警察、警察を呼んで……!!」
すっかり焦って混乱している智哉は、自分が携帯電話を持っていることを忘れていた。
男の姿が見えなくなりそうになる。
その時だった。
紺色の影が智哉の傍を通り抜ける。
おそらくスーパーの警備員だろう。
「待て!!」
その人は男に追いついてくれた。何やら怒号のようなものが聞こえてくる。
ようやく智哉も追いついた。
男はあきらめたのか、舌打ちして絵里香をアスファルトの上に放り出した。
智哉は急いで妹を腕に抱く。
彼女はひどく青い顔をしていた。
ひとまずお礼を言わないと、と智哉が警備員らしき男性に声をかけようとした時だ。
変質者が奇声を上げ、刃物を振り回してきた。
「逃げろ、早く!!」
振り返ってそう叫んだのは警備員ではなく、先日、初めて出会った警察官に間違いなかった。
一度見た人の顔を、智哉は忘れない。
「でも……!!」
警察官は咄嗟に、腰にさしていた警棒で応戦する。
逃げなきゃ。でも、この人を放っておけない。
けど、ここにいたって役に立てないどころか、下手をすれば足を引っ張ってしまうかもしれない。
しばらく智哉は動けずにいた。
変質者はもはや何を言っているのかわからないが、大声で叫びながら激しく暴れている。
お兄ちゃん!! と、絵里香が叫んだ。
彼女の言う【お兄ちゃん】が智哉のことなのか、それとも自分達のために闘ってくれている警察官のことなのかはわからない。
ぱっ、と鮮血が飛び散った。
変質者のナイフが警察官の肩をかすめたようだ。
「おまわりさん!!」
「何をやってるんだ、早く逃げろ……!!」
手で肩を抑えながらも、彼は首だけ後ろを振り向いて叫ぶ。
智哉はしかし、彼を見捨てる訳には行かないと思った。
救急車を呼ばなければ。
携帯、どこだっけ?
智哉がポケットを探っていると、いきなり頭上でぎゃああっ、と悲鳴が聞こえた。
変質者の男が刃物を落とし、アスファルトの上にうずくまっている。
いったい何が起きたのか……。
「早く!!」
誰かの声がした。




