この人、いったい何なのよ?!
「い、い、和泉さん! そ、それは急いで、班長に……!!」
結衣は慌てて自分のカバンから携帯電話を取り出した。が。
気がつけば和泉は既にスタスタと歩きだしている。
「ちょっと待ってください!!」
仕方ないので後をついていく。まったく、マイペースなんだから。
彼は乗ってきた車の運転席に腰を下ろすと、
「聡さんに連絡しておいて」
結衣は思い切り深い溜め息を隠すことなく、携帯電話を操作した。
それから和泉が運転して向かった先は宮島口フェリー乗り場であった。
「あの……和泉さん」
まだ朝の早い時間のせいか、観光客らしき乗客の姿はほとんど見えない。代わりに通勤客と思われる人物が多い。
観光客よろしく窓際の席に陣取って景色を楽しんでいる刑事に、結衣は声をかけた。
「な~に?」
和泉はこちらを振り返りもせず、窓の外に目を向けたまま。
「なんでいきなり、私とコンビ組みたいって……」
すると彼はようやくこちらを向いた。
「うさこちゃんに、手柄を上げさせてあげようと思って」
にっこりと無邪気に笑って答えるその表情は、彼にほとんど興味のない結衣にも、少しだけ胸をときめかせた。
「そ、それはどうも……」
それからふと気になった。
決して意図している訳ではないだろうが、あのジュノンボーイはどういうわけか、やたらにこちらが扱う事件に何かしら関わってくる。
今回のことだってそうだ。
彼には【何か】があるのだろうか?
警察官は2種類にわかれると言われる。【持っている】のと【持っていない】。
持っているとは、何もしなくても事件の方からやってくる巻き込まれタイプ。
持っていないとは、地道にパトロールしたり、どんなに職務熱心でも、なぜか上手い具合に事件に遭遇することができないタイプ。
あの子が将来県警に入ったらきっと、持っているタイプになるだろう。
「あ、あの……和泉さん。例の男の子……藤江周君、でしたっけ?」
「周君がどうかした?」
「和泉さんは彼と、どういう関係なんですか?」
すると和泉は一瞬、なんでそんなこと? という顔をしたが、
「……肉体関係」
窓枠に肘をつき、遠い眼をしてそう答えた。
「……だったらいいな……って何を言わせるの?! きゃー、恥ずかしい!!」
両手で顔を隠して首を横に振る。いい歳をしたおっさんが。
近くを通りかかった乗客が妙な顔をして去っていく。
ああ、私もこいつとはまったく面識のない人のフリをしたい……。
恥ずかしくて、結衣は思わず席を立った。
ねぇ、郁美。この人、いろんな意味で危険だから、ちょっと考え直した方がいいよ?