誰か適当なのはいないのか?
その日の朝の定例会議は、あまりよろしくない内容だった。
どうやら県警職員の誰がが、暴力団関係者と癒着しているようだ。
よくある話だと言えばそうかもしれないが、その誰かが誰なのか、名前を聞いてショックを受けなければいいが。
聡介はそんなことを考えながら会議室を出た。
すると、課長に呼び止められる。
「ああ、高岡君。来週の話なんだが……」
刑事部屋に戻った聡介は、全員を見回した。
ヤクザは警察に全面戦争をしかけたりはしてこない。組織力、人員、明らかに不利だとわかっているからだ。
だから彼らは組織全体ではなく個人を狙う。
金に困っている、異性関係にだらしない、そういう弱味を持つ警察官を巧みに操り、仲間に引き入れ情報を得る。
もちろん、いざとなれば知らん顔だ。
聡介はかつて何人か、そうして身を持ち崩した男を知っている。
思わず自分の部下について、果たして危険性があるか否かを考えてみた。
友永と日下部は共に女好きだ。が、友永には最近息子と娘ができたし、日下部はただのシャイであり、さらに言えば恐妻家でもある。
駿河は金に困ることもないだろうし、一途に思う相手がいるから問題ない。
和泉に関して言えばギャンブルは一切しないし、女性に対してもいたって紳士的だ。
ただ……息子について少しだけ別の意味で気になることがある。
「ねぇ、お昼一緒に行きましょう? 聡さんの奢りで」
気がつくと和泉の顔が目前に迫っていた。
いつものことだが、昼食というと、やたらにたかろうとするのはどういう理由だろうか?
仕事をしろ、と追い払ってからふと、うさこのことを思い出す。
彼女に関しては何も心配していない。それこそ駿河同様、真面目で一生懸命だ。
ただ……万が一、顔の綺麗なヤクザ者が彼女に近付き、騙したりしたら……?
早く嫁に行け、などと言えばセクハラになるし、誰か適当な男を紹介してやろうにも、今のところはツテがない。
伝手……で思い出した人物が1人いた。
そうだ! 彼なら地元民だし……。
「あの、班長? 私、何か変ですか……?」
気がついたらジーっと彼女を見つめていたらしい。
「ああ、すまん。なぁ……うさこ。お前、誰か好きな男はいるのか」
ついでのように訊いてしまった。
「……はい?」
なんだか、全員の注目を集めてしまった。
「なんでいきなりそうなるんですか?」
「いや、なんとなくな……」
どうやら困らせてしまったようだ。
すまん、忘れてくれ。とりあえず謝っておく。
和泉が再び近寄ってくる。
「聡さん、お昼~」
「ワリカンでな」
「……ケチ」
どっちがだ。