できれば、3匹ぐらい飼いたいんだが
朝早くに電話の着信音で起こされるのは、事件発生の報せだ。
駿河は通話ボタンを押した。
『朝早くにすまない、広島港で男性の変死体が見つかった。今から言う現場に急行してくれ』
班長の声だ。
「承知いたしました」
ベッドから降りるとチラシが足の裏に触れた。
実を言うとそろそろ猫の飼える部屋を探して、引っ越そうかと考えていた。
だが、何もかも条件の揃った部屋などあるわけがないので、なかなか決められずにいる。
それに。一人暮らしで、誰が猫の面倒を見るというのだろう。生き物を飼うというのは『可愛がる』だけではダメなのだ。
ところで。
他人のことだからどうでもいいが、和泉はいつまで班長の家に居候するつもりだろうか。
あの人の傍なら、しかし……さぞ居心地がいいだろう。
何を考えているんだ、僕は。
駿河は急いで顔を洗って服を着替え、外に出た。
とりあえず、現場にどうやって向かうか。スマホを取り出すと同時に着信音が鳴る。
『おい、今どこだ?』
友永からだ。
「自宅を出たところです」
『迎えに行ってやるから、ちょっと待ってろ』
迎え? 不思議に思っていると、しばらくしてメタリックグレーのワゴンタイプ乗用車が目の前に停まった。運転席に友永が座っている。
駿河は助手席のドアを開けて乗り込みながら、
「レンタカーですか?」
友永は鼻を鳴らした。
「何言ってやがる、俺の車だ」
「……どうしたんですか?」
「買ったに決まってんだろうが。独身貴族だぜ? 俺は」
そう言われてみれば新車の匂いがする。
それにしても。
「これ、どう見てもファミリータイプですよね」
7人、いや8人は乗れるだろう。
「……智哉と絵里香を、遊びに連れて行ってやる約束だからな」
あれは何か月前の話だっただろう。とある事件を通じて友永が親しくなった、高校生の男の子と、その妹。
亡くなった友永の息子と同じ名前ということで、随分大切にしているようだ。
「すっかり家族なんですね」
駿河が言うと、相方はなぜかやや暗い口調で答えた。
「……そうでもねぇぞ」
智哉は未だ俺に遠慮しやがる、と寂しそうだった。
「まぁ、無理もないがな……ついこないだまで、見ず知らずの他人同士だったんだ」
「でも、班長と和泉さんだって元は他人同士ですよ?」
「智哉はジュニアほど、神経が図太くねぇんだよ」
それはそうだ。