ウチだって捜査1課だから、みんな刑事なのよ?
先日の定例会議でのことだ。
県警内に、暴力団関係者と癒着している人間がいるという疑惑が持ち上がった。
参加した管理者は全員、まさか自分の部下ではないだろうな……? という顔をしていたのが忘れられない。
どの部署の人間でも可能性は考えられるが、一番怪しいと睨まれるのは組対……捜査4課だろう。彼らは常にヤクザ達と接している。
坪井課長はとても真面目で正義感の強い男だ。
彼を慕う部下も少なくない。
だが。
裏切り者が裏切る理由は様々ある。
聡介が溜め息をついた時、和泉がようやく戻ってきた。
「……随分、長い『外出』だったな?」
思わず皮肉を込めて声をかけてみる。
すみません、と彼は素直に答えて自分の席に座った。そして思い出す。今夜は和泉が当番だ。
ちらりと顔色を見ると、普段通りのように見えた。
いつもならこちらの視線に気がついて目が合うと、にっこり笑って手を振ってくるくせに、気付かないフリをしているようにも思える。
まぁいい。
それよりも今は、他にも考えなくていけないことがたくさんある。
※※※※※※※※※
眠くてかなわない。
駿河は立ち上がり、自動販売機へ向かった。
小銭を取り出して缶コーヒーを購入する。コーヒーで目を覚ますのも、そろそろ限界を感じつつあるのだが。
刑事部屋に戻ろうと廊下を歩いている時だった。
長髪で長身のHRT隊長を名乗る男性がこちらに向かって歩いてくる。
確か、北条警視だ。
話し方は相当おかしいが、隙のない身のこなしや、鍛え上げられた体つきを見れば、確かに特殊捜査班を率いるだけの猛者だとわかる。
「あら、あなたは確か……」
駿河は黙って会釈し、通り過ぎようとした。が。
「ねぇ、そういえば名前を聞くの忘れていたわ。なんていうの?」
「自分ですか? 駿河です……」
すると。ドン! と、なぜか壁際に追い詰められた。
北条は人差し指を左右に振り、
「そーじゃなくて、ファーストネームに決まってるでしょ?」
「あ、葵……です」
「そう、葵ちゃんね。階級は巡査部長ぐらい?」
黙って頷く。
「ねぇ、本気でウチに来ない? ウチだって分類としては捜査1課よ?」
「……自分は、高岡警部の下で働きたいです」
「ああ、聡ちゃん? 名前だけは聞いていたのよね、ずっと以前から。いったいどんな人かと思ってたけど……」
けど?
「想像以上だったわ」
いったい、何を想像したのだろう?
すると北条はくすくす笑い出し、身体の向きを変えた。
「あなたって顔に出さないけど、考えてることがいろいろ表に出るわねぇ~」
また言われた。
「望む望まないに関わらず、そのうちきっと【とりあえず人事】が発令するわよ」
「……何ですか? それは」
初めて聞いた。
「あら、知らないの? 知らないなら知らない方がいいわ。でも」
特殊捜査班の隊長はニヤリと笑みを浮かべた。
「公務員に異動はつきものってこと。ウチに来たいって言ってくれたら、アタシから人事にかけあっておくから」
何の話だかわからないが、とにかくあまり喜ばしい内容ではなさそうだ。
少し嫌な予感がした。