隊長がネタだと、部下もネタなんだな……。
聡介はいつこちらへ到着するだろう?
坪井課長はあまり気の長い方ではない。先ほどから少し、苛立ちが表に出だした。
ただでさえ強面なのに、その顔で睨まれたりしたらたまったものではない。
その時、廊下の方から複数の足音が聞こえてきた。
わっしょい、らっせらー、等、謎の声を掛け合いながら、誰かがドアを開けたようだ。
ひそひそ、何やら話し合っている。
「げっ、マズい……!!」
「バカ、何やって……?!」
バリン!! っと、襖の破れる派手な音が鳴り響いた。
マッスル体型の男性が5名、もつれ合うようにして部屋の中に転がり込んでくる。
その集団の上に鎮座していたのが、聡介だった。
「……」
「……」
「……」
「聡さん……大丈夫ですか……?」
「……なにこれ……」
和泉はちらり、と北条を見た。
派手な登場の仕方をしたのは全員、彼の部下である。
「……あんたたち……覚えてなさいよ?」
ひぃっ!! と、彼らは悲鳴を上げた。そして、蜘蛛の子を散らすかのように部屋の隅へと走り去っていく。
ぐったりと肩を落とし、それから聡介はあらためてまわりを見回した。
そしてシリアスに戻る。
「坪井課長……」
「あんたの息子に呼び出された。なんでも、大事な話があるっちゅうことじゃ」
父は困惑と悲哀の入り混じったかのような顔で此方を見つめてきた。
そんな顔したって、無駄ですよ……。
和泉はなるべく目を合わせないようにして、口を開いた。
※※※※※※※※※
「ここは年末、支倉が宿泊した部屋です」
犬神家の一族を、結衣は映画で見たことがある。
確かに終盤では関係者一同が広い和室に集まり、名探偵金田一耕助の推理に耳を傾けるのだ。
それこそ今みたいに、全員が座布団の上に正座して。
この際、金田一耕助役は和泉なのだろうか?
外見だけで言えばおよそ似ていないが、この場合、役割としてはピッタリだと思った。
結衣はそんなことを考えながら、一身に話に耳を傾けた。
「支倉……魚谷組のか?」と、応じたのは坪井課長だ。
「あの男に関しては、いろいろと黒い噂が流れていましてね。もしかしてこの旅館も巻き込まれているのではないかと」
「……クスリか?」
坪井課長は立ち上がり、いきなり押し入れを検分し始めた。薬の隠し所を探しているのかもしれない。
「課長、そこは後にしましょう。むしろ、その日……ここであったであろう支倉と重森さんとのやり取りの方が、今は重要です」
課長は驚き、再度座り直した。
「シゲが……ここで支倉と?」
「目撃情報があります。むしろ、隠すつもりもなかったのではないでしょうか」
そう言えば。
結衣もうっすらと誰かから聞いたような気がする。
年末のことだ。支倉がこの旅館に宿泊し、それから足の悪い男性が彼の泊まっている部屋に向かって歩いていた。
高岡警部によろしく、と言っていた……と。
「坪井課長、聡さんも。少し前に、誰かが暴力団関係者と癒着している疑いがある、と……言われていましたよね」
2人の上長は何も言わない。
「その辺りの真相は是非、ご本人の口から聞かせていただくことにしようじゃありませんか。ねぇ?」
和泉が部屋の入り口を見つめると、全員がそこに注目した。