『ツンデレ』ってわりと、ううん、かなり好物よ♪
今日からもう年始の営業が始まる。
玄関の掃除を命じられている周は、箒を動かしながら昨日のことを考えていた。
姉はなんだか元気がなかった。
何があったのか聞いても答えてくれなかった。
原因として思い当たるのは、もしかして『あいつ』だろうか。
もしかして、あいつが他の女と一緒に歩いているのを、偶然街中で見かけたとか?
だとしたら許せない!!
今度会ったら、絶対に文句を言ってやる!!
それにしても、さっきから箒がやたらに重い。
下を見ると、やっぱりだった。
「メイ~……お前は……」
茶トラ猫がいつの間にかこっちにやってきて、動く箒を追いかけ、しがみついていた。
猫の首根っこをつかみ、外に連れ出そうとしていたら。
「周君、おはよう!!」
「……和泉さん?!」
トラ猫は和泉の顔を見るなりぴょい、と飛び降り、ゴロゴロ喉を鳴らしながら彼の足元にまとわりつく。
メイちゃん、と彼がしゃがみ込むとその後ろに先日も見かけた背の高い男性と、そしてもう1人……。
「……おはようございます……」
奈々子だ。
「奈々子さん?!」
周は思わず箒を投げ出し、彼女にかけよった。
「どこ行ってたんだよ? 心配したんだぞ、俺も、姉さんも!!」
「ごめんなさい……あの、女将さんと美咲さんは?」
事務所にいる、と答えると彼女はやや慌て気味に中へ入った。
その後ろ姿を見送った後、周は和泉達の方を振り向いた。
「……見つけてくれたんだ、和泉さん。ほんとにありがとう……」
「周君が情報をくれたおかげだよ」
腕に猫を抱き、にっこり笑って彼はそう答えてくれる。
久しぶりになんだか温かいものを感じた。
そんな2人の間の空気を切り裂くかのように、連れの男性が訊いた。
「ねぇ、あなたもしかしてこの子の新しい彼氏?」
「……はい?」
「アタシはねぇ、この子の元カレ。この子、扱いが面倒でしょ~?」
いろんな意味で周は困惑した。
アタシって誰?
彼氏って何?
そもそも『この子』って誰?
さっきまで笑っていた和泉は、すっかり青ざめている。
「違うよ、周君!! この人の言うことは絶対、本気にしないで!! この人はただのオカマ……ぐはぁっ?!」
あ、なんか今、すっごい絶妙なタイミングで裏拳が鳩尾に入った。
「アタシの名前は北条雪村。遠慮なく『ゆっきー』って呼んでね? あなたのお名前を教えてもらえる?」
「……藤江周……です」
なんとなく押されて答えてしまう。
「そう。よろしくね、周君。この子……彰ちゃんのことで困ったことがあったら、何でも相談してね?」
「げほっ、ち、ちが……周君、誤解だよ……?!」
「何が?」
「この人と僕は、昔、同じ部署で働いていたっていうだけの……ただ、それだけだから!! 元カレとか、もう意味わからないから!!」
「ねぇ、この子の弱点を教えてあげようか?」
「いや―――っ!!」
何これ。
周はすっかり興ざめして、掃除を再開することにした。
「周君、何もかも誤解だから!! 本気にしないで、お願い!!」
とりあえず無視。
和泉の目から滝のような汗が流れ出した。
「……いつまでもそこに立ってないで、さっさと中に入るなりしたら?」
「う、うわぁああ~んっ!!」
帰るのかと思ったら和泉は、館内に向かって全力疾走した。
どうやら、これからここで『何か』あるらしい。
「みごとなまでのツンデレねぇ……」
見た目は立派に男だが、口調はただのオネエは可笑しそうに言って、彼の後を追いかけた。




