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そうして北条の後を追いかけて、和泉が見つけたものは。
「嫌です!! 離してくださいっ!!」
一昔前のゲームやアニメではもはや【お約束】であった、チンピラに絡まれる女性の図……である。
パターン通りに行くと、助けに入るのは主人公で、絡まれているのはヒロインである。
そんなことより。
今まさに、明らかにチンピラとわかる男が2人、女性を拘束しようとしている。
そして。奇しくも女性は奈々子であった。
飛び出して行った勢いそのまま、走り続けていた北条は、いったん少しスピードを落として高くジャンプすると、奈々子に絡んでいる一人、パンチパーマの男の背中に向けて飛び蹴りをくらわす。
パンチパーマの男は声もなく吹っ飛び、撃沈した。
あの人は果たして【手加減】という単語を知っているのだろうか……?
もう1人のチンピラは怯え、戸惑っている。
しかし。窮鼠猫を噛む、と言うのは本当で。
チンピラは懐からナイフを取り出し、奈々子の喉元に突きつけた。
「こ、こいつがどうなっても……?!」
が。この場合、相手が悪すぎた。
躊躇なく北条は男の手からナイフを取り上げ……それはまさに、目にもとまらぬ早業だったのだが……奈々子を自分の腕に抱き寄せると、
「知らない、っと」
長い脚から繰り出された蹴りが、男の顎にクリーンヒット。
男は声もなく吹っ飛び、撃沈した。
「奈々子さん!!」
その時になってようやく、自分が無事で助かったことに気付いたらしい。
奈々子は顔をくしゃっと歪め、泣きだしてしまった。
「……すみません……」
ようやく落ち着いた時には、いつも通りの彼女に見えた。
「和泉さん、どうしてここに? それと、あの……」
奈々子は北条のことが気になるらしい。
「この人のことは気にしないでください。通りがかりの変なオジさんとでも……ぎゃあっ?!」
「……」
レンタカーの中。
保護した奈々子を後部座席に乗せ、一先ず事情聴取と行きたいところだが。
ありがとうございました、と言ってからしばらく彼女は黙っていた。
「心配しなくていいわよ」
北条が声をかけると、当然ながら妙な表情をされる。
「別にあなたのことを責めようとか、そういうつもりは一切ないから」
この人はいったい? 奈々子の視線は思い切り、和泉に向かっていた。
「先ほどのチンピラ達はいったい、何と言って来たんです?」
「それが……何も言われなかったんです」
奈々子はボトムの布をつかんで弄びながら、答えてくれた。
「突然、一緒に来いって言われて……」
詳しいことは聞かなくてもなんとなく、ピンときた。
恐らく彼女は下手をすれば【消された】可能性がある。その理由はおそらく、和泉達が現在追っている事件に関し、彼女がそれなりに【マズイ】情報を握っているからだろう。
「それにしても、無事で良かった」
和泉が微笑むと、奈々子は再び目に涙を浮かべた。
「和泉さん、どうしてここが……?」
「それはですね……刑事の勘ってやつです」
くすっ、と彼女の顔に笑みが戻る。
「ごめんなさい、いろいろと。思うところがいろいろあったんです」
「そうでしょうね……」
それから奈々子は和泉と北条を等分に見つめると、
「でもやっぱり、黙っている訳にはいかないですよね。どうぞ、一緒にいらしてください……」