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そちらの方がよほど残酷だ

 しかし。だとすると、腑に落ちない点が1つある。


「うさこ。君の論理からすると……被害者が若尾竜一だった点についてはどう説明するつもりなんだ?」


「そ、それは……」


 結衣の話に納得しかけていた駿河は、自分自身に問いかけてもいた。


「殺害されたのはその、娘を死に追いやったヤクザの娘ではなく……若尾竜一の方だ。確かに突き詰めれば、被害者にも原因があるとは言える。だが……」


 その時、はるか遠くで腕を組みながら歩いているカップルの姿が視界に入った。


 とある可能性が閃く。


「沼田亜美と被害者は恋人同士だったな。つまり加害者本人ではなく……大切な存在の命を奪うことで、恨みを晴らしたということか?」


「そ、そう! それですよ!!」

「……」


 結衣は取り繕うように早口でまくしたてる。


「沼田亜美は被害者の恋人です。だから……大切な存在を失う悲しみを思い知らせてやろうっていう……」


 なるほど。

 それで納得が行った。


 それで、と結衣は続ける。

「それだけじゃありません。ご両親としては娘の命を奪った憎い相手の家族……つまりヤクザ屋さんですが……復讐してやろうって考えるのが自然だな……って私は考えました。玲奈さんのお父さんは私達の仲間、県警の警察官なんですよ。そして奈々子さんはご両親と手を組んでいた……ちょっと待ってください!!」


 いきなり結衣は大きな声を出した。

「玲奈さんの事件を調べるっていう意味では……奈々子さんっていう素人よりも、お父さんの方が本職です。ずっと早くに真相をつかんでいたかもしれません」


 駿河は少し考えた後に、

「確かにそうだな。じゃあ、どうして今になって行動を起こしたんだ?」


「そこは……タイミングじゃないんですか? よくわかりませんけど……」


 少しの間、2人とも黙りこんだ。


 彼女が何を言わんとしているか、なんとなくわかる。


 復讐などというのは、思いつきで簡単にできることではない。


 入念な準備と綿密な計画。

 すべての条件が揃うまで、ある程度は時間がかかるものだ。


「でももし、私が奈々子さんだったら……」

 それが考える時の癖なのか、結衣はコンビニのビニール袋を握ったり開いたりしつつ、宙を見据えて再び口を開いた。


「玲奈さんのお父さんを止めるんじゃないかって、そう思います」

「止める……?」


「陳腐な台詞ですけど、玲奈さんはそんなこと望んでいないって」


 彼女の言うことはもっともだ。


「私はその、奈々子さんっていう女性をよくは知りませんけど……決して、復讐を煽り立てるような人ではないと思うんです。いえ、根拠はないですけど。彼女、卒業した学校の制服をずっと保管していたんです。それは決して事件のことを、友人の死を風化させないためだと思うんです。ずっと恨みを抱き続けるというよりは、あの時、彼女の助けになれなかった自分を戒める……そんな意味で。きっと……」


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