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我々には盆も正月もない

 刑事さんて、正月から働いてるんですね。


 現場近くのマンション。

 インターフォンを鳴らすとすぐに応答があった。平日はほぼ留守ばかりだったのに、今日は押せば当たる。


 何件目かで会えた住人からそんなコメントをもらった。


「そう、あの夜は忘年会で。公園の近くで、なんか人相の悪い人達と、外車が何台か停まってて。足の悪そうなおじさんが一人、車から降りてきたんですよ。でも、そんなにお爺さんって感じではなかったですね。それとあと一人、ちょっと綺麗なおばさんが降りてきて。そこへ、いかにもチンピラってわかる男が群がってきたんです……」


 足の悪そうなおじさん、駿河には思い当たる人物がいた。


 御柳亭で見かけ、班長によろしく伝えてくれ、と告げたあの男性。


 そして中年女性。


 この人です、と目撃者が指差したのは、以前駿河が事情聴取に当たった白鴎館の仲居が映った写真である。


 この2人はどういう関係なのだろう? すぐに思い当たったのが夫婦、だった。


 礼を言ってそこを辞した後、結衣が呟く。


「ひょっとして……」

「どうしたんだ?」

「さっきの人が言ってた綺麗な女性って、私が奈々子さんの部屋で見た、重森玲奈さんによく似てるんです。親子かも……ううん、たぶん間違いないです!!」


 それからもう何件か巡った後に、いったん休憩することにした。


 どの店もひどく混んでいるので、コンビニで買ったお弁当を持って現場近くの公園に行き、2人はベンチに腰かけた。


「……今回の事件を君はどう考える? うさこ」


 正月の今日、公園には誰もいない。

 海が近いせいで、吹きつける風が冷たくて寒い。


「復讐……かもしれません」

 結衣は呟く。


「復讐?」


「奈々子さんという仲居さんのお友達で、重森玲奈さんという少女がいました。彼女は被害者のクラスメートで、若尾から好意を持たれていました。でも、若尾のことを好きだった、沼田亜美というヤクザの娘からイジメにあい、自殺したそうです。公式にはそうなっているそうです」


「……どういう意味だ?」

 ペットボトルのお茶を一口飲んで、結衣は答える。


「和泉さんが、あんな場所で自殺なんかしないって……」


 確かに。聞いたところによるとその少女が自殺したとされる場所は、今回の被害者が遺棄されていた現場の近くである。


 だが、それは彼の主観に過ぎない。


「私もその重森玲奈さんのクラスメートから話を訊きましたが……あれは自殺なんかじゃなくて、沼田亜美に殺されたんじゃないかと思ったって言っていました」

「その根拠は?」


「放課後、玲奈さんが一人になった隙を狙って……沼田亜美とその取り巻きが彼女を連れて、どこかへ向かったのを見たということです。その翌日に、玲奈さんが亡くなったという話を聞いて、そう考えたんだと」


 なんていう話だろう。


「でも、最終的に【自殺】って言う形で処理されました。ただ、彼女が泳げないことを知っていて、海に突き落としたんじゃないか……そんな意見もありました」


「と、いうことは。奈々子さんはもしかしたら……」


「私がもし、彼女の友人なら……自殺なんて信じません。ご両親だってそうだったと思います。だから……」

 結衣は空の袋を握り締め、宙を見つめて言った。


「もしかしたらもっと他の事情があったけど、真実が隠蔽されているのかもしれない。奈々子さんは、自分でもいろいろ真相を調べて、何か情報を得たのかもしれません」


「ということは……君は、奈々子さんを疑っているのか?」


 若い女性刑事は少し俯く。


「可能性の一つ、ですよ。でも、もしかしたら和泉さんも私と同じことを考えたのかもしれません。だから、姿を消した奈々子さんを何が何でも探し出すって。1人で勝手に行動し始めたんじゃないかなぁ……」


「なるほどな……」


「けど、動機っていう点で言えば重森玲奈さんのご両親だって充分クロですよね」


 確かにそうだ。


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