びっくりしちゃった
はっくしょん!!
結衣は両手で鼻と口を押さえた。
誰かが悪口を言っているのだろうか?
今日だけは久しぶりにゆっくり休める。結衣は朝から家でゴロゴロしていた。
兄も家族を連れて実家に帰っている。
リビングになんとなく居場所を失った結衣は、自分の部屋にこもった。
それからすぐにコンコン、とノックの音がしてあらわれたのは、兄の子供、つまり結衣にとって甥にあたる子供だ。
「ねぇ、おばちゃん。お年玉ちょうだい!」
「おばちゃんって呼ぶんじゃないわよ!!」
まったく。兄の子供は何度言っても学習しない。あの嫁が悪い。
口数が少なくて陰気。狐みたいに細い目が、どこかこちらをバカにしているように思えてならない。
反りが合わないからか、結衣は兄嫁に対して良い印象を持ち合わせていない。
そこはお互いさまで、もちろんその子供も、結衣になつかない。
血を分けた子供だから兄は当然可愛がっているが。
仕方ない。結衣が適当に小銭を何枚かポチ袋に入れて甥に渡すと、さっそく中身を確認した彼は、これだけ~? と不満を述べて去っていく。
お礼の言葉はなかった。
結衣は深く溜め息をついた。
こんなことなら、あのまま捜査が続行してくれればよかった。家にいなくて済む。
そうだ、バーゲンにでも行こう。
結衣は出かける支度をして、家を出た。
今は元日から営業している店がある。その店で働く人達も、盆も正月もないんだな、と思ったら、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
年明けを少しでも楽にするために、今のうちから書類仕事を少し片付けておくか。
そこで結衣は買い物をやめて職場に向かった。
すると。
入り口のところで、ばったり駿河に出会った。
「何か忘れ物か?」
「駿河さんこそ……」
「僕は、家にいるのがいたたまれなくて出てきた」
「わ、私もです!」
思いがけず、仲間を見つけた。
「それに……和泉さんのことも気になる」
ああ……確かに。
皆が事件解決だ、と喜んでいた傍で、彼だけは少し異なっていた。
それから2人は部屋に入り、それぞれの席でパソコンの電源を入れた。結衣は再び立ち上がって、お茶を淹れに給湯室へ向かった。
他の皆はどうしているだろうか、と結衣は全員分の湯のみを見ていて思った。
日下部はお嫁さんの実家に行く、と沈んだ顔色をしていた。あの人はそういう親戚付き合いが苦痛で仕方ないらしい。
友永はあの美少年と、その妹と一緒にお出かけだろう。
詳しいことは知らないが、あの子の家もなかなか複雑そうだ。そして何よりも結衣には意外だった。
友永の人物像として、あまり他人に関心がなさそうで、それこそ子供なんてまっぴらごめん、というタイプだと思っていたから。
長い間、生活安全課少年係にいたと聞いた時にはもっと驚いた。
思えば、仲間達については知らないことの方が多い。
班長のことが一番わからない。
過去に何かあったらしい、ということぐらいしか。
2人分のお茶を淹れて刑事部屋に戻ると、パソコンを前に駿河は固まっていた。
「……どうかしましたか?」
「ああ、いや……和泉さんからメールが来ていて……」
自分の端末で見るのが面倒だったので、結衣は彼の肩越しに画面を覗きこんだ。
『はーい、葵ちゃん!! どうせお正月から働いてると思うから、こっちにメールしてみたよ!(^^)! 実は、例の雑誌記者の事件なんだけど、ホントはまだ全面解決だと思っていないんだよね。そこで、いろいろ事情があって僕1人で、勝手に動き回ることにしたから。とりあえず、奈々子さんを探しに行ってきます。で、もしも手伝ってあげてもいいなぁと思うんなら、引き続き地取りの方をお願い。それじゃ、またね~』
「……なんですか、これ……」
いろいろ事情があって勝手に動き回る?
いかにも和泉らしいが、班長がそんなことを許したのだろうか。
確かに、結衣自身もあまりスッキリした気分ではない。いろいろ『?』が残っている。
しばらくして駿河は言った。
「うさこ、もう一度現場周辺を聞き込みに回ってみないか? 今まで留守だった家の住人から、何か新しい情報が得られるかもしれない」
驚いた。
彼がそう言うことを言い出すタイプだとは思っていなかったからだ。
「……班長の指示を仰がなくていいんですか……?」
「本来、出勤日ではない時に、どこで何をしようと僕の勝手だ」
彼は上着を羽織り、部屋を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
「君は無理をしなくてもいい。班長に叱られたくないなら」
「いいえ! 私も行きます!!」
なんだか妙な対抗心がわいた。
そこで結衣は駿河と共に、再び現場へ向かうことにした。
あ、エビ書けばよかった……。




