真実なのだろうか
『じゃけん、車に傷をつけられたんよ。あれはワシらの兄貴の大事な車なんじゃ』
頬に傷跡のある、外見からしてヤクザ者だとわかる男は取調室で、担当警官に向かってそう話していた。
自分が若尾竜一を殺した、と出頭してきたのは、魚谷組構成員の一人だと名乗った、まだ若い男性である。
兄貴、というのは支倉のことだ。
『ベンツじゃぞ、ベンツ。あんたら貧乏な公務員には、どう頑張って手が出んじゃろう、高級車なんじゃぞ。それも、彼女とのデートに使わせてくれるって兄貴が特別に貸してくれた車なんじゃ。それに傷をつけられたら、腹が立つのは当然じゃろうが』
男はしかしどこか余裕のある態度で、取調べにも素直に応じている。
事件のあった夜、贔屓にしているキャバ嬢とデートの約束を取り付け、支倉が特別に貸してくれたという外車を乗り回し、あの現場でしばらく停車していたということだ。
そこへ、何の目的か知らないが、被害者があらわれたと言う。
被害者はカメラを手に持っており、何かシャッターチャンスを狙っているようだった、と男は話す。
何枚か写真を撮っていたようだが、撮影に夢中になるあまり、気がついたら車の傍に寄っていて、持っていたカバンの金具でベンツのボディに傷をつけたらしい。
『腹が立つどころの話じゃないわ。指の一本ぐらいじゃ、済まされん思うたんよ』
『何のために、あの日、あの場所にいた?』
『さっきも言うたろうよ。デートの最中じゃったって。あそこは特に見るところもないような場所じゃけど、夜は人気がないけぇのぅ……』
男はいやらしい笑みを浮かべた。
『連れの女は?』
『それは言えん。相手に迷惑がかかるけぇの』
『……どうやって殺した?』
『ワシ、いつも護身用に鉄パイプを持ち歩いとるんよ。借りた車のトランクにも積んどったけぇ』
『それで?』
『あいつ、車に傷をつけといて全然謝らんのよ?! マジでムカついたけぇ、最初は素手で一発殴ってやったんよ。したら、生意気にも反撃してきたんじゃ。腹が立ったけぇ、トランクから鉄パイプを取り出して、頭に一発……』
男はニヤリ、と凶悪そうな表情を浮かべた。
『あいつ、命乞いしてきよったんで。情けない顔してのぅ……あれはおもろかったわ!!』
『……なぜ、今になって出頭してきた?』
すると。
男はなぜか急に、沈んだ表情を見せた。
『……そんなん……怖かったからに決まっとるじゃろうが。誰が好きこのんで、刑務所なんかに入るちゅうんじゃ。けどニュースを見とったら、もう逃げられんと思うたんよ……』
果たして男の言うことは、真実なのだろうか。




