誰なんだ、いったい。
「結局のところ、班長に何があったんですか?」
上司に何があったのかを、駿河は知らない。
誰も答えてくれない。
知らなくてもいいような気がする。
しかしなぜ、組織犯罪対策課の坪井課長がここにやって来たのだろう。
頭の中に疑問符がいくつも飛ぶ。
その時だった。
誰かの携帯電話がけたたましく鳴り響いた。各自、自分の物を確認する。
僕じゃない、と駿河は他の仲間を見た。
みな一様に自分ではないという顔をしている。
だが、まだバイブ音は鳴り響いている。
駿河は手を伸ばして、上司の内ポケットに触れた。間違いない。
ディスプレイを見ると『大石課長』とある。
班長の携帯電話を取り出し、なんとなく和泉に渡した。
「はいはーい、高岡聡介警部の携帯電話でーす……はい? いけませんか。父は今、電話に出ることができませんので」
和泉の眉間に皺が寄る。
あの大石捜査1課長が好きだという奇特な警官はいないと思うが、彼もやはりその1人らしい。
「え……?」
しばらく黙って相手の話を聞いていた和泉の表情が段々と強張る。
「……それは、どういう意味ですか?」
そして彼の顔はどんどん険しくなっていく。
和泉はしばらく黙った後、なぜか携帯電話を友永に渡した。
「あ、課長ですか? お疲れ様です……はい……えぇ……えっ?!」
相棒の表情が変わる。ひどく驚いている様子だ。
そしてなぜか、携帯電話は駿河の元にまわってきた。
『……じゃけん、どこで何をしょうるんか知らんが、はよぅこっちに戻って来いちゅうとるんじゃ!! お前らはいつもいつも、ワシに面倒ばっかりかけさせよって……!!』
「あの、課長。申し訳ありませんが最初から詳細を説明していただけませんか?」
電話の向こうで少しの沈黙があった。
やがて、
『ホシが出頭してきたんじゃ!! ええから、はよう戻れ!』
「え……?」
出頭?
いったい何の事件の話だ?
一瞬だけ考えたが、他にないと考え直す。
若尾竜一殺害事件の実行犯が出頭してきた、ということだ。
『知っとるじゃろうが?! 捜査が終わってからの方が、ずっと忙しいんじゃ!! ワシはなるべく残業しとうないけぇな、とっとと書類をまとめて提出するよう心がけろ!!』
駿河は和泉と友永の表情を見た。
他人のことを言えた義理ではないが、2人とも無表情だった。
様々な感情を通り越して、もはや何がなんだかわからない、そんなところだろうか。
とりあえず、命令通り戻ることになった。
「支倉の件は……どうなさいますか?」
駿河は和泉に訊ねた。
彼はちらり、とビアンカを見る。
「何か変わったことがあればすぐに連絡をください。ここに警官を1人配置しますので、すぐに呼んでください。決して、自分で何とかしようとなさいませんように」
和泉は意識を失っている状態の班長を背中におんぶして、どこか面白くなさそうに旅館を後にした。




