いろんな意味で頭が痛い
『もし別れるんだったら、さくらはあなたが引き取るんでしょう? いいのよ、私には梨恵ちゃんがいればそれで』
『ほんとつまらない男よね、あなたって。仕事のこと以外に興味ないんでしょう? たまには父のお供でゴルフにでも行ってくればいいじゃない。そうして少しでもご機嫌を取っておけば、今度の昇進試験が楽になるわよ』
『忘れないでよね。私が、あなたをここまで支えてあげたのよ。感謝されこそすれ、恨まれる理由なんてないはずだわ』
『お父さん。お父さんは、お母さんがきらいなの……?』
『本当はね。ちょっとだけ聡介君のこと、いいかなって思ったことがあったのよ……』
「高岡さん、高岡さんってば!!」
若い女性が、こちらを覗きこんでいる。
「さくら……? 梨恵……?」
どちらかだろうか。
思わず娘達の名前を口にしてみる。
聡介は自分がなぜか、畳の上に横たわっていることに気付いて、半身を起こした。
頭痛がする。
というか、いったいどういう状況なんだ?
貴代と話していたら、急に頭がぼんやりしだして、ひどく眠気が襲ってきた。
「俺は、いったい……」
「身体に何か変なところない?!」
口々にまくしたててくるのはなぜか、あのドイツ人女性だった。
先日の事件で知り合った彼女とはあれから、調書を取るために何度か会っていたが、なぜここにいるのだろう?
しかも和服姿で。
「何がどうなってるんだ? 貴代さんは……!!」
貴代の姿は見えなくなっていた。
「貴代さんって誰?!」
突然ものすごい勢いで詰め寄られ、聡介は思わず後ずさりした。
「え、えーと……」
助けを求めてまわりを見回す。
誰もいない。
とにかく、和泉と連絡を取って……。
携帯電話を探そうと自分の身体を見た聡介は驚き、思わず大きな声をあげそうになってしまった。
上着を脱がされ、ネクタイは外され、ワイシャツのボタンがかなり外されていた。
「……???」
いったい何が起きたのか、まったくわからない。
「あの……ビアンカさん?」
「実は私もあまりよくわかっていないんだけど、さっき急に和泉さんが私に……高岡さんに危機が迫ってるから、助けに行ってあげてって」
頭痛がした。
危機が迫っているから助けに行けって、それを女性に言うあのバカ息子の神経もさることながら、何が起きたのか未だに把握できていない自分にも苛立つ。
「あら、目が覚めたのね」
頭上で声がした。男の。
少しふらつく頭をゆっくりと上げると、なぜかあの特殊捜査班の隊長である北条警視がそこにいた。
「気分はどう?」
ちっとも良くない。
頭の中に靄がかかったような気分だ。
はい、と背後から北条がジャケットを着せてくれる。
「ボタン、とめた方がいいわよ? ベルトもね」
何があったのだろうか?
急にものすごい不安に襲われる。
次の瞬間にはまさか、と冷や汗が流れ始めた。
「大丈夫よ、心配いらないわ」
「な、何がですか……?」
「そっちの心配してるんでしょ? 安心して、聡ちゃんの操は守られたわよ」
「……みさお……?」
「高岡さん?!」
「聡ちゃん!!」
ふっ、と意識が再び遠のいた。




