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いったい、何があったんだ?

 あれから米島朋子は意識不明の状態のまま、生死の境を彷徨っているらしい。


 まだ比較的若く、事故が起きる直前までは健康だったため、助かるか否かは半々と言ったところだと医師は言っていた。


 聡介は和泉のことが気になって仕方なかった。


 あれから、なんだかずっと様子がおかしい。


 そして、思い出したことがあった。

 今からもう何年も前、尾道東署にいた時のことだ。


 とある殺人事件の容疑者に対して逮捕令状が降り、刑事達が犯人の自宅へ向かった時である。


 玄関のドアを開けると、犯人が今まさに毒をあおり、自殺を図ろうとしていたところに出くわした。


 刑事達が取り押さえたおかげでなんとか未遂に終わったが、その時、和泉だけ何か様子がおかしかった。


 彼は急に犯人の胸ぐらをつかんだかと思うと、強く揺さぶりはじめた。


 そして。

 まわりの刑事達が止めるのも聞かず、犯人の男に向かって殴る蹴るなどの暴行を加え始めたのである。


 その時、和泉の表情はかつて見たことがないほど凄惨だった。


 聡介がどうにか彼を抑えこんで、その場の収拾はついたのだが……。


 刑事達は容疑者が自殺することを嫌悪する。

 被疑者死亡のまま書類送検、ということがあるが、それは実質的に裁判にかけることができずに終わったという意味だからである。

 

 自分達の苦労を全て無にされるに等しい行為だ。


 それに何より、死に逃げることなど許されるはずがない。

 そのことをよく理解している聡介は、彼の気持ちがわからなくもなかった。


 しかし、今でもあの時の和泉は異常だったと思う。


 彼にはまだ自分の知らない『何か』がある。


 それが【容疑者の自殺】という、特定の条件下で発動する悪い症状なのだとしたら……?


 ちらり、と聡介は和泉の方を見た。

 今のところ表面上は平常通りを装っているが。


「聡さん、ちょっと出て来ます」

 突然、和泉は立ち上がってそう言い残し、部屋を出て行った。


 もしかしてこちらの視線に気付いたのだろうか。


 彼の「ちょっと出てくる」は割と長時間に渡る。


 何かあったのか? と、部下達が目だけで問いかけてくる。


 聡介は無言の内に首を横に振る。


 どうしたものか……。


 つい先日から同じ部屋で業務を行うことになった特殊捜査班HRTの隊員達は、今は訓練中のようで姿が見えない。


 かつて和泉と同じ部隊に所属していた、あのちょっと変わった隊長なら、詳しいことを知っているかもしれない。


 だけど。

 無理に訊きだすのは、どうにも気が進まなかった。


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