肉食系女子って、きっとこういうことかもしれない。
結局、班長にとっては和泉さんの方が……ぐすん。
結衣はぶつぶつ言いながら捜査本部で書類をまとめていた。
「うさこ、ちょっと来てくれ!!」
そこへ、慌てた様子の日下部が走ってくる。
「どうしたんですか?」
なんだか、署の玄関口が騒がしい。なんとなく聞き覚えのある女性の声が騒いでいる。
げっ……。
結衣は思わずそう、声に出してしまった。
どこかで見た顔、どこかで聞いた声。
沼田亜美だ。
「警察はいったい何やってんのよ!!」
まさか里帰りとは。
その上、彼氏の事件のことで警察に乗り込んでくるなんて。
彼女はこちらの姿を見つけると、抑えにかかっていた事務員達を振り払い、真っ直ぐに結衣の方へ突進してきた。
「刑事さん!! あれから何の連絡もないじゃない、どういうこと?!」
彼女は文字通り結衣の胸ぐらをつかんで迫ってきた。
「い、今は鋭意捜査中ですから……」
苦しい。女性のくせに、意外と力がある。
「誰が竜一を殺したのよ?! 教えてよ!! そんな奴、私がぶっ殺してやる!!」
亜美はまるで結衣が犯人でもあるかのように睨みつけ、激しく揺さぶってくる。
それから彼女はなんだかんだと喚きながら、それこそ首を絞めてくるのではないだろうかという勢いで迫ってくる。
誰か助けて……!!
ふっ、と圧迫感から解放された。不意に視界が暗くなる。
「……あのねぇ」男性の声。「ここは警察署よ? そんな物騒なこと言ったら、あんたが疑われちゃうからやめておきなさい」
誰だっけ?
確実に何度か見てはいるのだが……それにしても、その口調は。
背が高く、ガタイの立派な男性警察官。県警の制服を着ており、胸元には高い階級にあることを示す勲章がついている。
沼田亜美は突然あらわれた闖入者と、結衣を交互に睨んでいる。
「でも……!! 何かわかったらすぐに知らせろって言ったのに!!」
「まだ、真相は闇の中ってこと。わかるわね?」
亜美は黙り込んだ。
「いい子だから、お家に帰りなさい」
男性がポンポン、と彼女の頭を撫でると、途端に大人しくなった。
すると。沼田亜美はすごすごと署を出て行く。
猛獣遣い……。
「あ、あの……」
礼を言おうとしてふと、結衣は思い出したことがあった。
いつかの捜査会議の折り、発言したくて何度も手を挙げているのに、ちっとも指名してもらえなかった時。後ろから突然、助け船を出してくれた人の声に似ている。
男性がこちらを振り向く。
「ありがとうございました」
その途端、電流が走ったかのように結衣は男性の身元を思い出した。
そうだ。今後しばらく同じ刑事部屋を使うことになったと、いつか挨拶に来た特殊捜査班の隊長。
確か名前は北条警視。
彼は結衣の方をじっと見つめると、なぜかいきなり腕をつかんできた。
意外に痛くて、思わず悲鳴をあげてしまう。
「……もうちょっと鍛えなさい。身体も、心もね」
はい……としか、結衣には言うことができなかった。




