どっちかが『付録』ってことはないからな
不思議に思いながら家のドアを開けた途端、智哉の携帯電話が鳴りだした。
「友永さんだ!」
智哉よりも先に絵里香が嬉しそうに反応した。かけてきた相手によって着信音を変えてあることを彼女は知っており、この音は友永だということを覚えている。
話をさせろ、と絵里香は小さな手を伸ばしてくる。
智哉は着信ボタンを押して、携帯電話を妹の手に持たせた。
「もしもし~?」
今日はお友達の家に行ってきた、と妹はしばらく他愛のない話をし、満足した頃に電話を返してきた。
「友永さん?」
『おう、智哉。良かったな。友達ってあいつだろ? 七三眼鏡で下にやたらにガキがいる……』
「いい加減、名前を覚えてあげてくださいよ」
『あはは、悪ぃな。それよりお前、正月って何か予定あるか?』
「何もないですけど……」
『俺もだよ。だから、ほら。どっか連れてってやろうかと思ってさ』
「……友永さん、お仕事は?」
『何言ってやがる、正月から事件を起こす奴なんかいねぇよ』
それは本当だろうか……? と智哉は思ったが、あえて口には出さないことにした。
年末年始と言えば、両親が揃っていた頃はたいてい、父親と母親の親族に会いに出かけていた。あまりいい思い出はないが。
両親が離婚してからは母親も自分の実家に顔を出すことがなくなり、親子3人で静かに過ごしていたものだ。
絵里香はどこか外に連れて行け、と母親にせがんでいたが、日頃すっかり仕事で疲労していた彼女は、正月ぐらい休ませてと相手にしなかった。
今年はどうなるかな……と思っていたところに、思いがけない救いがあった。
ほんの2ヶ月ほど前、智哉が偶然に街中で出会って親しくなった友永修吾という人は、県警捜査1課の刑事である。
初めは胡散臭い人だと思っていたのだが、見ず知らずの自分にとても親切にしてくれた。
それはたまたま、彼の亡くなった息子の名前が自分と同じだったと言うこともあるのだろうけど、何度か接している内に、本当に子供と人が好きなんだということがよくわかってきた。
彼は妹の絵里香にも優しくしてくれた。
人見知りな妹は初めこそかなり警戒していたものの、信じていい人だということがわかるようになると、実の父親のように懐くようになった。
『とりあえず、行きたいところの候補を考えておけよ? ただし、県外はちょっと無理だからな。悪いな……』
「いえ、ありがとうございます。絵里香が喜びます」
『……』
いきなり電話の向こうが無言になったので、何か変なことを言ったかと、智哉は不安に襲われた。
『……お前の気持ちはどうなんだ? 智哉』
「え、ぼ、僕ですか……?」
『俺は、お前と絵里香の2人に声かけてんだよ』
思いがけない返答に戸惑う。
「それは、もちろん……嬉しいです」
『そうか。なら、また連絡するな』
なんとなく不思議な気持ちを残して、智哉は通話を終えた。