考えてみてもわかんないわ
女性は再び話し出した。
「噂はすぐ下火になりました。誰もその件に関しては触れたがらないっていうか、暗黙の了解ですよね」
ふと結衣は、その後の奈々子は卒業するまでいったいどんな気持ちでいただろうかと考えた。
重森玲奈が自殺したのは、卒業を控えた3ヶ月前だと言っていた。
自分だったら……どうしただろう?
真相を調べる為に行動しただろうか。
それとも……?
話は変わりますが、と唐突に和泉が言いだした。
「影山誠という生徒ですが」
「影山……? ああ、若尾の奴隷ね」
「奴隷?」
すぐにピンときたらしい。
女性は口元に侮蔑の笑みを浮かべた。
「あいつ、実は私とずっと同じ学校だったんですけどね。陰気くさくて友達いなくて、身体も細いし、気持ち悪いって皆で言ってたんですよ。でもある時、若尾がね……仲間に入れてやるってあいつのことを誘ったんです。それ以来かなぁ。なんだかほら、拝むじゃないけど、若尾の言うことなら何でもきく、みたいな関係性になって……」
なるほど。
必要があるかどうかはわからないが、結衣は必死でメモを取った。
「影山氏も、3年前の同窓会には出席なさいましたか?」
「ええ。まぁ」
「その時も、やはり2人の関係性は同じ様子でしたか?」
すると、
「そう、あいつおまわりになったんですってね?! 信じられない!!」
彼女はひとしきり笑った後、
「若尾のためじゃないか、なんてみんなが言ってましたよ。ほら、あいつ新聞記者になったでしょ? そういえば学校で、新聞部に入ってたんだ。どうでもいいゴシップネタを書いては印刷して、校内に配りまくってましたね。おかげで誰と誰が付き合ってて、いつ別れたかとか、どうでもいい話を皆が知っていました。で、そういう情報を探ってくるのはいつもたいてい、影山の方です。あいつ存在感薄いから、近くにいるの気付かれにくくて、内緒の会話とか聞かれちゃうんですよね」
若尾竜一という被害者が、お世辞にも褒められた人格ではないことが、よくわかった。
その友人だと言う影山も然り、である。
「……あなたは、若尾竜一という男性をどう評価しますか?」
和泉の質問に対し、女性は片頬を歪めるような笑い方をした。
「沼田亜美とすごくお似合いだった、っていえばわかります?」
よくわかりますよ、と答えた和泉はなぜか笑顔だった。