何かって何?!
元教師に礼を述べてから、2人は紹介してもらった女性の自宅へ向かうことにする。
車を停めているところに向かいながら、結衣は頭の中でいろいろと人間関係を整理していた。
そしてふと思い出して口にする。
「ねぇ、和泉さん。影山って確か、廿日市南署の刑事ですよね?」
返事がない。
だが、結衣には確かな記憶だという自信があった。
ちらっと聞いただけだが、駿河に対してやたらライバル心を燃やしており、2人の間に何かトラブルがあったらしい。
「……今は人事1課らしいよ」
かなり間が空いてから返事があった。
「えっ、監察ですか?!」
びっくりした。が、
「で、でもあの人……!! こないだの事件の時、大問題を……」
捜査情報を得ようと美しい女性の容疑者が近づいてきた時、その刑事はその申し出に応じたらしい。
容疑者が自分の身と引き換えに求めた捜査情報が漏れた結果、捜査に横槍が入って、捜査本部は解散したのだ。
普通なら懲戒免職ものだろう。
「うちの県警は特別だから」
「そ、そんな……」
「正義とは何か、そんな概念は曖昧なんだよ。どこまでもね」
「でも、和泉さん……それじゃあ……!!」
すると。
和泉はかつて見せたことのない、真剣な表情で答えた。
「今にきっと、何かが起きると思うよ」
それよりも、と和泉はアクセルを踏む。
「次、行こう」
教師が教えてくれた女子生徒の自宅へ向かった。
太田という姓のその女性は、刑事達の訪問をあまり歓迎してくれなかった。
「ああ、若尾君のこと? 私、それほど詳しくは知りませんよ」
「いえ、お訊ねしたいのは重森玲奈さんのことです」
重森……と呟いてから、女性はああ、と思い出した顔を見せた。
「あの、亡くなった子でしょう? でも、どうして今さらそんなこと? 確かあれは自殺だって警察の人が言ってた……」
「彼女が自殺する原因に、心当たりはありますか?」
そんなこと……と一瞬女性は戸惑った様子を見せた。
「例えは、イジメがあっただとか」
少しの間沈黙があったが、既に時効だと考えたのかもしれない。
「まぁ、そりゃ……彼女、大人しい子だったし、なんて言っても顔の綺麗な子だったですもの。男子達は皆チヤホヤするし、同じクラスの女子としてはおもしろくないですよ。だから、皆で無視してやろうって話になったこともありました」
気持ちはわかる。
結衣が学生だった頃にも同じことがあった。周囲に追随して、加害者側に回ってしまったことを、今でも深く後悔している。
「でも彼女には、親しい友人がいましたよね?」
「ああ、須崎さんでしょ? あの2人、いつも一緒にくっついてたなぁ……」
と、女性は面倒くさそうな口調で続ける。
それから何を思ったか、急に顔を強張らせた。
「ひょっとして須崎さんが、今になって何か警察の人に妙なことでも吹きこんだんですか? あれは自殺だったって……お巡りさんも言ってました!! 確かに、彼女だけが最後まで自殺を疑っていましたけど……それとも、重森さんが自殺したのは私達クラスメートのせいだって主張してるんですか? だったとしても、なんで今さらそんな古い話を持ち出してくるんですか?!」
まずい。
下手をするとこれ以上、話を聞けなくなる恐れがある。
おそらく、日頃は記憶の奥底にしまいこんでいるであろう学生時代の記憶を呼び覚まされて……それも決して胸を張って言えるような内容でもないこと……気分がいいわけがないのだ。
なんとかならないだろうか。
結衣は急いでまわりを見回す。