門前払いが当たり前なんだけどね
結衣の認識では佐伯東高校はとにかく頭のいい子が通う学校、というものである。
校則が厳しくて、真面目な生徒が多い。
今でもそれは変わらないようで、黒い髪をした少年少女が、一部の乱れもない格好で歩いている。
結衣はつい、まわりを歩いている高校生たちに視線を奪われていた。
「うさこちゃん、行くよ」
はっ、と我に帰って職員室に向かう。
当然ながら刑事の訪問を教師が歓迎する訳がなく、初めは嫌な顔をされた。
しかし。何年か前の卒業生のことで、と伝えると、少し態度が軟化した。
2人の担任教師だったという女性が去年、定年を迎え、今は自宅にいるのではという情報を得た刑事達は早速、元担任教師の自宅を訪ねることにした。
幸い、学校からそれほど遠くはない場所だった。
元教師は女性で、温和そうな顔立ちをしていた。突然の刑事の訪問に嫌な顔一つせず、親切に出迎えてくれる。
「まぁまぁ、警察の方……どうぞ、散らかっていますけど」
その上、中に上げてくれた。破格の待遇と言わなければなるまい。
「それで、警察の方が何の御用でしょう?」
そこで和泉がかいつまんで事の次第を話すと、ああ、と元教師は頷いた。
「若尾君……まさか、あんなことになるなんて」
「若尾竜一さんは、どんな生徒でしたか?」
「クラスの中心人物でしたよ。明るくて活発で、頭の回転の速い子で。そう、あの頃から新聞記者になりたいって言っていて、せっかく夢をかなえたのに……」
それから元教師は本棚から卒業アルバムを持ってきて、テーブルの上に広げた。
「これが若尾君です」
被害者は高校生の頃からあまり顔が変わっていないようで、すぐに判別がついた。
生徒は全部で40人。結衣は注意して写真を見まわし、そして見つけた。
沼田亜美の顔。
そして、現在探している奈々子という女性。
さらに、彼女と一緒に映っていた美少女の顔も。
奈々子のフルネームは「須崎奈々子」というらしい。
「あの、この女の子の名前は……?」
結衣は奈々子と一緒に写真に映っていた、美少女の顔を指差して訊ねた。
どれどれ、と元教師は眼鏡をかけてアルバムを覗きこむ。
「ああ、玲奈ちゃんですね。重森玲奈ちゃん」
「この方、奈々子さん……須崎奈々子さんとは親しかったんですか?」
「ええ、それはもう。奈々子ちゃんと玲奈ちゃんね。懐かしいわ……2人はとっても仲良しでね……」
温かいお茶を出してくれながら、彼女は懐かしそうに目を細めた。
「玲奈ちゃんはどこかの外国人の血が混じっているらしくて、綺麗な顔立ちの子でね……同じクラスの男子生徒から人気がありましたよ。でも、どちらかというと物静かで目立たない子でしたね。奈々子ちゃんといつも一緒で、2人で手芸部に入っていたんだったかしら」
「若尾さんと、彼女達の関係はいかがでしたか?」
和泉が質問する。
すると元教師は表情を曇らせた。
刑事達2人はじっと黙って返事を待つ。




