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君達、どこいくの?

一方その頃、ではなくて……少し時間が前に遡っています。

 12月24日。


 母は妹を産んだことを、もはや忘れてはいやしまいか。


 篠崎智哉はそんなことを考えてしまった。


 クリスマスと世間が大騒ぎする日の夜も母親はずいぶん前から、この日は再婚予定の相手と過ごすから、絵里香の面倒見てやってね、と言っていた。

 確かに、そういう日に子連れでは興が削がれるだろう。


 絵里香ははじめ、自分も一緒に連れて行けとねだった。


 智哉がどんなに宥めても無駄だった。結論は出ないまま、その日を迎えた。

 彼女は何事もなかったかのように、身なりを整え、一人で出かけて行った。


 幸いなことに救いはあった。

 智哉の友人で、妹と同じ歳の弟がいる円城寺から、遊びに来ないかと誘ってくれたのである。

 

 弟の一人が誕生日で、クリスマスと兼ねて自宅でパーティーをすると。

 おかげで絵里香は機嫌を直してくれたが、本当に骨が折れた。

 

 古いが広い居間にちゃぶ台が置かれ、その上には蝋燭が立ったケーキと、智哉が買ってきたフライドチキン、それからピザなどが何枚か、パーティーらしい料理が並んでいる。


「周は来ないの?」

「……誘ったんだが、何かいろいろあったらしくて来れないと言っていた」


 また何か事件に巻き込まれたのかな、と智哉は秘かに思った。

 こないだ確か、市内のコンサートホールで発砲事件があったとかニュースでやってたけど。


「ありがとう、信行。本当に助かったよ」

 智哉の言い方を聞いて円城寺は不思議そうな顔をした。

「何かあったのか?」


「母親が出かけるって言った時に、一緒に連れて行けって、妹がかなりごねたから……」

「そうか、まだ母親に甘えたい歳頃だものな。かくいう君は、何も問題はないのか?」

「え? 僕が何?」


 友人は眼鏡のつるを持ち上げながら言う。

「こういった日は、なんというか……特別な異性と過ごしたいものではないのか?」


 ……考えたこともなかった。


 去年はどうしてただろう。


 ああ、そうか。


「そういう君こそ……」

「僕は今のところ、異性との交遊よりも、家族と過ごしたい」いかにも彼らしい。


 それから、気がつけば夕方だ。妹は充分楽しんだようで満足げである。


 外に出ると、すっかり日が暮れていた。

「絵里香、手を離しちゃだめだよ」


 円城寺の家の付近は畑や田んぼが多く、街灯は少なく、人気もほとんどない。

 智哉はしっかりと妹の手を握った。


 すると。向かいから自転車が走ってくるのが見えた。


「君達、どこ行くの?」

 いきなり声をかけられて、智哉はびっくりした。


「家に帰るんです」

 暗がりのなかで、話しかけてきたのはどうやら警察官であるらしかった。


 何も知らない人が見たら、智哉と絵里香が兄妹だとわからないかもしれない。それこそ変態が幼い少女を連れ回しているとでも勘違いされてはたまらない。


「あの、この子は僕の妹で……」

「お家はどこ? 最近、この辺りは物騒でね。つい先日も変質者が出たっていう噂があったから気をつけて」


 背筋を悪寒が走った。

 智哉は妹の手を一層強く握ると、わかりました! と返事をして足早にそこを去った。


「あ、待って! 何か落としたよ」

 警察官が追いかけてくる。


 それは絵里香が大切にしているポシェットで、既に肩ひもと本体が離れかかっていたのだが、とうとう切れてしまったようだ。


「はい、どうぞ」

「……ありがとう」

 絵里香はこちらが何か言う前に、きちんと挨拶をした。


 めずらしい。いつもは催促しないとちゃんとお礼も言わないのに。


 智哉が礼を言って立ち去ろうとした時だった。

 相手もまた、こちらの顔が良く見えたらしい。


「君は……?」

 制服警官は手を伸ばし、智哉の肩に触れた。驚愕の色が顔いっぱいに浮かんでいる。


「君、名前は?!」

「え……あの、篠崎智哉……です。ここからもう少し行ったところの……一軒家に住んでいますけど」


 なんだろう? 僕の顔に良く似た指名手配犯がいるのかな?


 なんだかドキドキしてきた。


 ちらり、と智哉は制服警官の顔を見た。

 一度も会ったことのない顔だと思う。


「……すまない、ちょっと……知っている人に似ていたもので」

 それじゃ、と警官は自転車に跨って去っていく。


 なんだったんだろう……?


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