キャラクターメイキング
僕の名前は雪城歩夢。
正直言ってこんな世界には絶望している。
諸悪の根源は糞ったれの両親だ。
なんと、ダブル不倫の挙句に家庭崩壊と来たもんだ。
当然ながら二人とも離婚を決めているようだが、お互いに相手に責任があると主張して譲らない。そのために離婚交渉は完全に泥沼化状態。しかも、どちらも不倫相手との間に子供がいてすでに事実婚状態だったりする。
そして、僕の立場はサイアク以下だ。
お互いに顔も見たくないほど憎い相手のDNAを受け継いだ僕の顔は見たくないそうだ。
自殺するだけの勇気があれば絶対に自殺したと思うくらい酷く罵られた。
思わず『僕が自殺したらワイドショーが楽しみだね』と言ってやったら途端に両親は絶句してしまう。
ダブル不倫の挙句に子供を自殺に追いこんだ鬼親。こんな極上のネタをワイドショーが放っておくはずが無い。
自分たちの末路を思い知った両親たちは慌てて謝罪してくるが後の祭りだ。もはや家族に戻るのは無理な話だ。
こうして齢15歳にして親元を放り出された僕はアパートで一人暮らしする事になった。まあ、離婚協議中の両親からは多額の小遣いが振り込まれているし、祖父母たちは定期的に面倒を見に来てくれるので生活に困る事は無いのがせめてもの救いか。
もともとがジャンルを問わないヘビーゲーマーだった僕は、保護者がいなくなった途端に夕方から朝までゲーム漬け。昼間は家か学校で惰眠を貪る優雅な廃人ニートに堕ちた。
また、こんな好き勝手な生活を送っていると様々な人間に目を付けられてしまう。ほとんどは不良崩れのクズだが、自分だって廃人ゲーマーのダメ人間だ。今の自分に相応しい相手という事だろう。
こんな自堕落な日々を送っている最中、全く関係がないページが開いた。
『このゲートを開いた貴方は自分が住む世界に絶望している事でしょう。
そんな貴方に生まれ変わるチャンスを提供します』
「これって何のページなんだ?」
この最低の世界に絶望している僕は、興味を持って次のページを開いてみた。
「これってゲームのキャラクターシートみたいだな」
画面の左半分には僕の写真が表示されている。そして、右側には数値が書かれた表が表示されている。
体力 8/器用15/知力13/生命 8
財産レベル-2(赤貧)/地位レベル-2(戦闘奴隷)/ 敵(常時/危険)
特殊能力
美形レベル1/弱気/怠惰/臆病者
どうやら、僕をデータ化したらこのような能力値になるみたいだ。
客観的に見ればだいたい合っていると思う。
シートの右上には250という数字が書かれている。おそらく、このポイントを消費して能力値を設定するのだろう。
とりあえず美形レベルの横にある数字を押してみた。-3〜3の数字が表示された。
とりあえず3を押してみる。すると、画面の僕の写真が絶世の美少年に変化する。
同時に画面が軽く光ってリアルの僕の顔も変化する。
「これは凄いな」
思わずこんな感想をつぶやいていてしまった。どうやら、生まれ変わるチャンスという前文には嘘偽りが無いらしい。
ポイントを見ると45ポイントを消費していた。
今度は-3を押してみる。すると、画面の僕の写真がホラー映画のゾンビに変化する。
「これは酷いな」
思わず苦笑してしまう。ある程度は予想していたが、予想よりもはるかに酷い。
ポイントを見ると29ポイントが増えていた。
「これってどういう計算式なんだ?」
数値変化のルールを確認しないと効率的なポイントの振り分けが出来ない。
その為、数値を一つずつ操作して確認することにした。
-2にしてみる。ポイントが+17になる。差は12だ。
-1でポイントは+9。差は8。
0だとポイントは+5。差は4。
1だとポイントは0。差は5。
2だとポイント消費は15。
3だとポイント消費は45。差は30。
「んーと、マイナス能力の場合は基本値×レベルだな」
マイナス能力にした時のポイントの上昇値は次の通りだった。
4,8(4×2),12(4×3)
だから、まず間違いはない。問題はプラス能力のほうだ。
5,15(5×3),30(5×6)
「別の能力も試してみるか」
特殊能力をチェックしてレベル式の能力値を探す。
魔法の素質はレベル3までだから同じだろう。
防護力はレベル5まであったので改めてチェックしてみる
5,15(5×3),30(5×6),50(5×10),75(5×15)
「……まあ、こういうふうになるって覚えておけばいいな」
計算式なんかどうでもいいな。数値の変化のルールさえ覚えておけば問題は無い。
********************
「とりあえず、こんな感じでいいかな」
適当に数値を分配してイケメンスポーツマンにする。
250ポイントをも使って自分強化に専念すれば普通にこうなるだろう。
また、変更不可能な特殊能力で《戦闘奴隷》とあるので柔道、剣道、空手の達人にした。
これで僕は格闘技の達人になったはずだ。
「ところで、これは何だ?」
キャラクターシートの上の方にページを切り替えのスイッチがあったので切り替えてみる。
「こっちのページはロボットの設定だな」
どうやら戦闘はロボットに乗って戦うみたいだ。
現在表示されているのは、作業用の丸いポッドに固定式の大砲を装備した兵器だ。
機体の名前はバトルポッドらしいが、設計思想も見た目もボ〇ルそのものだ。
「これはありえないな」
超能力者でも宇宙一格闘家でも遺伝子改造人間でもボー〇に乗っていたら戦場で活躍する事は不可能だ。
苦笑しながら機体レベルを上げようとするが全く変化しない。
「どういう事だ?」
しばらく首を傾げて考えてみる。
「ひょっとしてポイントはキャラクターと機体で共通なのか?」
試しに特殊能力をいくつか消去してポイントを貯めてから機体レベルを上げてみる。
すると下半身にキャタピラを装備したロボットに変更される。
「これは面白くなってきたな」
思わずほくそ笑んでしまう。
さっきまでの条件だと、誰がキャラクターを作っても、イケメン、スポーツマン、天才の三拍子が揃った完璧超人になってしまう。
これでは面白みが欠片もない。ポイントは足りないくらいの方がゲームとして面白い。
だからこそ、ポイントを獲得するためにプレイヤーは必死になって頑張れるのだ。
そして、不足するポイントを最大限に活用する事がゲーマーの醍醐味だ。
とりあえずポイントをリセットしてもう一度キャラメイクから始める事にする。
まずは機体レベルの上限を調べる。どうやらレベルは6まであるみたいだ。
しかし、実際に選択出来るのはレベル5までだ。
消費ポイントはレベル毎に4,8,16,32,64となっている。
残りポイントは126だがレベル6は選べない。
とりあえず顔をゾンビに変化させてからもう一度確認をしてみる。
今度は無事に選択する事が出来た。消費ポイントは128だった。
「さ〜て、どういう方針で進めるかな」
こういうシステムの場合、キャラメイク時点での最強は、キャラクターと機体にバランスよくポイントを振る事だ。ただし、この方針だと将来的に万能選手に化ける可能性が無いわけじゃないが、高確率で器用貧乏になる。
将来的な活躍を考えるのならキャラクターか機体にポイントを偏らせた特化型が正解だ。
もっとも、ガン〇ムとシ〇アのどっちを選ぶべきか? これは難題だろう。
機体に偏らせる……つまりガ〇ダムを選べば、最初は戦場以外では約立たずのバトルマシーンになる。しかし、機体に見合う実力をつければ戦場で最強の存在を目指せる。
キャラクターに偏らせる……つまりシャ〇を選ぶ最大のメリットは、キャラクター=自分という事に尽きる。頭脳明晰、イケメンのエースパイロットで女の子にモテる(これ重要!)
もちろん、実力に見合った機体さえ手に入れれば、こっちでも最強を目指せるだろう。
「ん〜機体レベルが1違うだけでずいぶんと性能の差があるよな……」
レベルを上げたり下げたりしながらカタログをチェックすると思わずつぶやいてしまう。
なにしろ、レベル0がボ〇ル、レベル1でガン〇ンクだ。
機体レベルが1上がるだけで機体性能は別次元に跳ね上がる仕様だと言える。
「だったら、機体重視で進めてみるかな」
アニメなどでは量産機に乗る敵のエースが、最新鋭機に乗る主人公(素人)に完封される事は珍しく無い。
やはり、パイロットの実力だけで機体の性能差を埋めるのは著しく困難だ。
そのため、機体重視の方針でキャラメイクをする事にする。
機体重視となると……かなり無理があるが機体レベル5に決めた。
機体にこれだけポイントを回すと、自分強化に回すポイントが不足してしまう。まず間違いなく高性能機を操る素人になってしまう。
そのため、最初は高すぎる機体性能に振り回される。高性能機は相応の技量がないと操縦は困難だからだ。
そのため、機体に見合う実力をパイロット(僕)が身に付ける前に斃される可能性は小さくはない。
それでも、機体に見合う実力を身に付ける事が出来れば、間違いなくトップエースになれる。そして、トップエースになれば、女の子の方から押しかけてくるはずだ。当然、童貞卒業だって夢じゃない。
ちなみにレベル6はありえない。
機体に全部ポイントを注ぎ込むどころか自分を削る必要がある。
今の自分がそのまま起動兵器のパイロットになるなんて無理、無茶、無謀の三拍子が揃った暴挙でもある。
といっても、目の保養のついでにレベル6の機体をチェックしてみる。
(質量を持った残像? こっちはビーム反射装甲か?)
どれも反則的な特殊装備を標準装備している。レベル5の機体も高性能だが、レベル6の機体は高性能なんてレベルじゃない。明らかにチートとしか思えない。
(それにしても、操縦に必要なスキルが頭おかしくないか?)
どの機体も操縦に必要な技能がとんでもなく高い。一番操縦が難しい機体だと必要操縦レベルが40以上だ。
「あれ? この機体だけ基本性能が低いのか?」
機体の名前は《黒龍皇》。鋭角的なフォルムが美しい漆黒の機体だ。
もちろん、レベル5の機体と比べたら圧倒的に性能は高いのだが、他のレベル6の機体よりは性能は控えめだ。
「自己修復装置、半永久炉、バリア、魔導エンジンか……」
バリアを装備していて、HPとENの自動回復機能付き。
魔導エンジンの出力で性能が変化する特殊仕様が特徴だ。
おそらく、出力が全開になったらレベル6の機体でも最強になるはずだ。
しかし、出力が弱ければ最弱になってしまう。
その代わり、性能が抑えられている時には操縦に要求されるレベルも控えめだったりする。
(ひょっとしたら、これなら操縦できるかも)
不足で性能に大幅なリミッターがかかっている状態。
機体性能の10%も引き出してはいないが、レベル6の機体は基本性能がチートだからそれでも十分に強い。
(レベル6の機体に乗れる可能性があるならば、この機会は逃すべきじゃない!!)
キャラメイクの方針は決まった。
「厄介なのはこの前提条件だよな……」
黒龍皇を起動するためには魔導エンジンを動かす必要がある。そして、魔導エンジンを起動するために必要な前提条件は『魔法の素質レベル3』だ。
そして魔法の素質レベル3に必要なポイントは50だ。
現在のポイントは27ポイント。全然足りない。
「こうなったら、バッドステータスを取りまくるしかないか……」
《けちんぼ》、《好色》、《狭量》を取得。
さらにダメ人間になってしまった。
その代わり30ポイントを取得。これで合計57ポイントになった。
「ゾンビ顔は嫌だけど……仕方が無いな」
これ以上のバッドステータスを習得する事は無理みたいなので、顔をゾンビから戻すためのポイントが足りない。
とりあえず、転生先ではゾンビ顔を元に戻す事をモチベーションにするしかないだろう。
残った7ポイントは機体の操縦系に3ポイント、魔法に4ポイント割り振る。
「これで完成だな」
ようやくキャラメイクが完了だ。
最後に右下にある転生ボタンをクリックする。
『宇宙戦闘の準備は出来ていますか?』
なるほど。異世界から戦闘要員を召喚したはずなのに、ボ〇ルに乗ったイケメンばかりという悲惨な事態は受け入れ側としても困るはずだ。警告するのは当然だろう。
もっとも、僕の場合は全く問題がないので普通にハイを選択する。
『今の世界に未練はありませんか?』
さらに警告文が表示される。もちろんハイだ。
いまさらこんな世界には未練なんかない。
『転生すれば二度と元の世界には戻れません。それでも良いですか?』
おそらくこれが最終警告だろう。
行き先がゲームみたいな異世界ならむしろ僕にとっては理想郷だ。
「ゲームスタート!」
そうつぶやきながらハイのボタンを押した。
直後、画面から激しい光りが溢れてくる。
『サジタリウス世界にようこそ。我々は貴方を歓迎します』
光の奔流に包み込まれた僕の頭の中で、誰かからのメッセージが聞こえてきた。
そして、僕の意識は真っ白な光に飲み込まれていった……
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キャラクター紹介
雪城歩夢 16歳、男、身長155cm、体重48kg
能力
体力 8/器用15/知力13/生命 8
特殊能力
財産レベル-2(赤貧)/地位レベル-2(戦闘奴隷)/ 敵(常時/危険)
美形レベル-3/弱気/怠惰/臆病者/けちんぼ/好色/狭量
技能
学業 10(知力/並) /料理 13(知力/易)/ゲーム 24(器用/並)
機動兵器操縦 18(器用/易)/機動兵器射撃 17(器用/並)/
機動兵器格闘 16(器用/難)
※ 機動兵器系はゲームスキル-6がベース
魔法操作 14(精神/並)/着火 12(精神/難)/火球 11(精神/至難)
機体レベル 6
黒龍皇
HP 5340 (-1860)
EN 84 (-36)
移動力 5(−3)
加速度 2(−2)
最大速度 10(−5)
装甲 1680(−720)
機動力 14(−6)
限界反応 33 (−15)
必要操縦技能 15(−7)
特殊能力
バリア小 (ダメージ減少500/EN7(+2)
自己修復装置(HP回復/小)373(−161)
永久炉 (EN回復/小)58 (−26)
魔導エンジン(要、魔法の素質レベル3)
魔法操作技能で起動する事が可能。
技能レベルによって機体の能力が変化する。
武器スロット数 1(−5)
防御スロット数 1(−5)
補助スロット数 1(−5)
所有武器(初期装備)
ビームライフル 射程 2~5 射撃武器 攻撃力1680(−720)EN13(+3)
ビームサーベル 近接武器 攻撃力1960(−840)EN7 (+2)
※魔導エンジン起動に必要な魔法操作スキルは20レベル。
足りない分だけ能力が低下している。
次回から本格的に異世界での戦いが始まります。