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地下女子会

お題:ぐちゃぐちゃの女祭り! 制限時間:4時間

殿方の皆様は、きっとご存知ないと思うの。私達が、どれだけ面の皮が厚いのかを。私達が、どれ程の苦労をして日々この「姿形(ナリ)」を維持しているのかを。


* * *

午後5時。柳川舞子はその日の業務を全て終え、パソコンの電源を落とした。

「お疲れ様です」

彼女の挨拶に、同僚からの労いの声が其処彼処から響く。舞子は部屋を退出するときにお辞儀をし、扉を静かに閉めた。

彼女が直行するは更衣室。着ていた制服を脱ぎ、値が張りそうな、それでいて上品な服装に着替えていく。会社を出る頃には午後5時半になっていた。

そのままビジネス街を歩き、最寄りの駅の改札を通る。舞子が乗った電車には、様々な年齢層の人々―――皆一様に疲れた顔をしていたが―――がいた。電車に20分ほど揺られ、舞子は自宅と職場の中間に位置する駅で降り、そのまま繁華街をつかつかと歩いていく。彼女が向かったのは瀟洒なビル―――の入り口ではなく裏口。カードキーを取り出して扉を開け、地下へと続く階段を降りていった。


* * *


舞子はその見た目の美しさからも、仕事っぷりからも車内で一目置かれていた。所謂マドンナ的存在である。気品溢れる立ち居振る舞い、真剣な仕事への姿勢、社交的な性格と同僚や部下から慕われ、お局様的な立場の社員には「迂闊に手を出せないラスボス」という印象を抱かせるほど。

完璧な女性ではあったものの、近寄りがたい雰囲気を持っているというわけでもなく、同期の中には彼女に憧れている男性もいた。


* * *

階段を降りた先には、一枚の防音仕様の扉が。扉を開けると、一流ホテル顔負けのコンシェルジュが一礼していた。舞子はその人にカードキーを見せ、本人確認を済ませると、更に奥にある扉の向こうに消えた。扉には、流麗な書体で「地下女子会」と書かれていた。


* * *

重低音のヘビメタが部屋の中に響き渡る。その部屋は酒の匂いが満ち、叫び声が木霊していた。異様な酒場だと言われても理解できそうだが、通常の酒場と異なる点が一つ。


女性しかいないのだ。この部屋には。


成る程女子会と言われるだけのことはある。


しかし、しかし。これを「女子会」と呼んでも良いのだろうか?

どの女性も髪を振り乱し、ヘビメタの重低音に合わせて絶叫し、呪詛の如くに愚痴を周りに溢している。ビールにワインに焼酎に日本酒にカクテルと、凡そ酒と名のつくものは全て取り揃えてあり、それらをまるでマラソンランナーが水を補給するかのように呑みまくっているのだ。それも、妙齢の女性が。これは最早「女子会」ではなく、「集会」「溜まり場」と呼んだ方がその実態に相応しそうである。

舞子もその中の一人であった。三ツ星レストラン顔負けのつまみを片手に焼酎瓶一本をラッパ飲みし、日頃の鬱憤や恨みつらみを周囲の同じような状態になっている女性に言いまくっている。きっと同僚が彼女のこんな姿を見ても、舞子だとは認識不可能だろう。

「地下女子会」の宴は朝4時まで続く。途中から酔ってグダグダのべろんべろんになった連中が場を占拠し始め、昼間の彼女達とは全く違った様相を示している。部屋全体がまさに「混沌」そのもの、といった感じになったところでいつも誰からともなくお暇していくのである。彼女たちは互いが誰であるかを殆ど知らない。ごくたまに友人がばったり出会うこともあるが、此処では互いが互いを知らないという暗黙のルールのもとで、皆がカオスになっていくのである。


* * *


翌日の朝9時。舞子は普段通り会社に居た。昨日酔っ払っていた様子は微塵も見せずに。会社の誰もが憧憬の眼差しで以って彼女を見、来客の誰もが振り返る程の華やかさを纏って。その場にいる誰も、彼女が今日の朝4時まで呑んだくれていたなんて知らない。自分たちへの鬱憤をぶちまけていたなんて知らない。


「地下女子会」は、もしかしたらそんな「完璧」な女性の唯一の発散場、魂の拠り所として機能しているのかもしれない。彼女たちの心のメーターが振り切れた時―――――




「地下女子会」の部屋が絶叫と鬱憤と酒で満ちるのかもしれない。


今宵も日暮れと同時にとあるビルの地下を目指す女性がまた、一人。

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