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錬金術師と賢者の石

お題:穢された錬金術 制限時間:1時間

さ〜て皆さんお立会い。此方にありますのは、かの有名な錬金術師、ニコラス・フラメルが常に所持していたと謳われる代物:「賢者の石」の粉末で御座います。

高名なる錬金術師様々のお陰で、我々一端の錬金術師であっても伝説級の物質を作ることが可能となりました。…此方の調合書によってですがね。

かの者は千年の時を生き、決して衰えず、万物を金に変え、巨万の富を築いた。皆さんご存知の通り、この「賢者の石」を使って。…有名な伝説ですよねぇ。

この場で不老不死を再現することは聡明なる皆様なら不可能であると理解することが能うでしょう。それこそ、一端の錬金術師でなくとも、子供でも解る事でございます。何故なら、私がこの場でこの粉末を飲んで不老不死になっても、目撃者にして証人に在らせられます皆様が死神の鎌の餌食になってしまっては誰も効果がわかりませんからね。…おっと失敬。聡明なる皆様の前で不躾にも死神の話をしてしまいました。

はてさて。それではこの愚かな錬金術師はどのようにして「賢者の石」の効果をこの場で証明して見せるのか?皆様どうか失神すること勿れ。私めがこの場で、金を作って見せましょう。

嗚呼、どよめく程のことでは御座いません。この一錬金術師には「賢者の石」の粉末があるのですから。

それではこの坩堝の中に水銀と、「賢者の石」の粉末を入れ、加熱してみましょうか。加熱しすぎて坩堝が割れてしまっては金が生み出されても元も子もありますまい。こちらの金属棒で混ぜて熱を満遍なく広げておきましょう。

…さて。せっかちな方も、そうでない方も、そう熱くなりなさるな。熱するのは石ころだけで十分。急がずとも、ここでは奇跡が為されているのだから。ニコラス・フラメル万歳!


一般的に、この「銀から金への変成」の工程は数週間、乃至数ヶ月かかるという恐ろしく手間のかかるものなのですが、「賢者の石」を使えば皆様御覧の通り。数分で出来てしまいます。

火からおろして冷ましましょう。熱くては黄金を確かめられませんから。冷ました後のこの姿、どうぞご覧あれ、そして驚嘆せしめてくださいな!紛う事なき金塊ではありませんか!

さてさて幸運なる皆様。貴方がたは今宵万物の奇跡を目撃なされたのです。どうぞこのことは御内密に。教会に見つかってしまっては千年の秘術も闇と炎の中に葬り去られてしまいますが故に。

皆様は聡明であらせられます上に、運が良い。今晩、最も高い値をこの「賢者の石」にお付けになった方に、私めは石の欠片を譲ろうと思います。嗚呼、そう周囲の方々と剣呑になりなさらないでくださいな。それでは石を使いやすいように細かく砕いた粉末を、1g100ギルデルから……………



* * *

「全く、錬金術師様々、ニコラス・フラメル様々だよな」

ありとあらゆる貴族、裕福な商人、役人連中の欲に塗れた目と手と金から逃れ、たんまりと稼いだ錬金術師…基、詐欺師は、足取り軽く地方都市の門をくぐった。

「実際は水銀と金の沸点の違いを利用したペテンなのによ」

水銀は金に比べると沸点が低い。男はそれを利用して、水銀と偽「賢者の石」を金属棒で混ぜたのだ。

実は金属棒の先端には加工がしてある。金属棒の中は空洞になっており、金細工職人から譲り受けた金の粉屑が入っているのだ。それを黒蠟で栓をし、普通の金属棒のように見せかけていただけなのである。

坩堝の中で水銀と偽「賢者の石」を加熱し、金属棒で混ぜれば当然蠟は溶け出す。水銀は蒸発するし、偽「賢者の石」と蠟は混ざって坩堝にくっついてしまうため、多くの人は熱した後の焦げか何かだと思ってしまう。

「「賢者の石」の調合書よりも、この詐欺の手引書の方がよっぽどか手っ取り早く稼げるぜ」

詐欺師は足取り軽く次の街へと夜明けの薄明の中を歩いて行った。

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