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メゾン・アーバンレジェンド

お題:殺された女 必須要素:豚骨ラーメン 制限時間:4時間

「なぁ、あの都市伝説、知ってるか?」

「『豚骨ラーメンばばあ』だろ?」

「午前2時に県境の廃墟でラーメンを食べていたら、後ろから左肩を叩かれて「何のラーメンを食べておるんじゃ?」って訊かれるアレだろ?」

「そうそう。で、「豚骨」って答えないといけないってやつ」

「え?俺が聞いた話では、「豚骨」って答えて実際豚骨ラーメンを食べていたら免れるけど、他のラーメンを食べていて「豚骨」って言ったら「大嘘つきめ」って罵られて首を絞められ、他のラーメンを答えたら「正直者」って罵られて追いかけられ、豚骨ラーメンを食べていて他のラーメンを答えたら二度とこの世には戻ってこられなくなるらしいんだけど」

「マジで?細かすぎんだろ『豚骨ラーメンばばあ』」

「確かにwww」

「しっかし、廃墟でラーメン食う奴がいるか?普通」

「それを言えば何故『豚骨ラーメンばばあ』は『豚骨ラーメンばばあ』になったんだよって話になるじゃねえか」

「あ〜、ネットではその県境の廃墟が、1980年代に『豚骨ラーメンばばあ』がやっていた飲食店で、資金難から経営が傾いて店を閉めざるを得なくなったんだと。で、借金取りから逃げる前に『豚骨ラーメンばばあ』が最後に食べようとしたのが豚骨ラーメンで、食べてる最中に心臓発作で亡くなったとかなんとか」

「いやにリアルな話だな」

「『Wisdompedia』に載ってた」

「Wisったのかよwww」

「まあな」

「『豚骨ラーメンばばあ』も迷惑な話だよな、なんか不名誉な感じで人口に膾炙してるし」

「…そうだな」

「あ、そろそろ俺バイト行くわ」

「おう、また明日な」

「じゃな〜」


* * *

…本当に、迷惑な話である。


「帰ったよ、ばばあ」


「だ〜れが、ババアじゃっ‼︎」

いつものやりとりを済ませ、自室に向かう。


「ったく、何が『豚骨ラーメンばばあ』じゃ、人のことを年寄りみたいに言いおって…ワシはまだまだピチピチの80代じゃぞ!」

色々とツッコミたい所はあるが、これもいつものことなので放っておく。


俺の家は、少々、いやかなり変わっている。俺は現在大学生で、祖母が持っていたアパートの一室を借りて暮らしている。借りるっつっても、俺は家賃は払わなくてもいい。水道・電気・ガス代、共益費とかも、祖母の遺した遺産で十分に賄える。また、二年前に亡くなった祖母の遺言で、祖母の財産の殆どは俺が相続することになっている。

そうなると、骨肉の争いとか、相続税とか、色々考えなければならないことがあるんじゃないかっていう話になると思うが、そうはならない。祖母の遺言に異議を唱える者は俺の親戚に誰もいなかったからである。というのも、アパート及び財産の相続条件が、「都市伝説の語り手となること、都市伝説の当事者を保護すること」だからである。

「俺の家が変わっている」とさっき言ったのはそのためだ。祖母も母も叔母も、皆そういった能力が高い。母は文字通り「◯◯の母」みたいな感じになってるし、叔母は凄腕デイトレーダーだ。祖母は祖父を「そういった能力」で探し出したらしい。そんな感じで俺の親戚とか家族には霊感が強かったり、予知能力が高かったりする人が多いのだ。そんな彼ら彼女らが避けようとする「アパートの大家」という仕事を引き受けざるを得なかった俺の立場と言ったら…あとはご想像にお任せする。

それが、ウチに「豚骨ラーメンばばあ」がいる理由である。勿論、他の「都市伝説」の皆さんも絶賛滞在中である。

「全く、お前さんもお前さんよ。ワシのことを広める時に「ばばあ」なんぞという単語を使いおって」

ばばあがブツブツ言いながら俺の部屋に入ってくる。

「俺は「女の人」って言ったよ。後は目撃者が勝手に付けたんだろ」

「じゃあ何故それを訂正せんのじゃ」

「いや、広まってしまったものは仕方がないし」

「『口裂け女』の奴だってババアだろうが!」

色々言いつつもばばあが机の上に夕食を置く。なんだかんだ言って、ばばあの作るご飯は美味しい。

「そうか〜?」

「そこは素直に肯定せえ!」

ちなみに、「口裂け女」は、かなりの美女である。以前俺の友人が、俺の住んでるアパート付近を通った際に口の裂けていない彼女を見て、「住ませろ」と言ってきたことがあるくらいだ。(幸いなことに友人は俺が大家だと知らない)

「あ、そうそうばばあ。「豚骨」以外のラーメン食べてるのに「豚骨」って答えた人の首を絞めたらダメだろ」

俺の役目は、単なる「都市伝説の語り手、及び保護」にとどまらない。「行き過ぎた伝説の制御」も含まれる。

「彼奴等が嘘をついとるのが良くないんじゃ。ワシらは恐怖をも抱かせんといかんしのぅ」

「そりゃまあそうだけど、殺人はよくないよ」

「もちろん手加減はしとるぞい」

「ならいいけどさ…」

共用玄関の方から音がする。

「誰か帰ってきたのか?」

「ああ、この時間帯なら『メリーさん』じゃろ」

時刻は7時を過ぎている。

「遅くね⁉︎」

「なんでも、好きな男の子に電話していたとかなんとか」

最近の若いもんは〜などとぶつくさ言うばばあ。

実はそれも俺の悩みの種である。彼女を家に招けないこと。それもあって、俺は中々彼女を作ることができない。まあ勿論平凡な見た目もその原因の一つだが。

「そっか」

メリーさん次第では、新しい都市伝説ができるかもしれない。

「ばばあ、美味しかったよ、ご馳走様」

「だから、ばばあじゃないって言うとろうが‼︎」

これもいつものツッコミ。


なんだかんだ言って、俺は結構今の生活を楽しんでいるのかもしれない。

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