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1章4話 神の御手

 俺は4歳になった。あれから魔法の勉強は続けられ、ケリーの教え方とエトナのスカートめくりのおかげか、火水土風すべての属性で中級以上になっていた。エトナは「毎日選ぶのも大変なんですからね」と小声でぶつぶつ言っていたが。

 中級になるとファイアボールが使えるとか、ライトニングがーとかそういったことはなく、威力や精度、魔力の量によって判定される。

 とりあえず中級の目安として、火ならガラスを溶かす熱、水なら岩を切ることが出来る、土なら岩石の加工、風は木を切ったりすることが出来る。

 要するに、魔法に名前が付いていないのだ。ただイメージを誘導しやすくするために、ウォーターカッターやファイアボールと叫ぶのは有効だとされている。

 俺は恥ずかしさもあって、無言だったが。


 そして俺の4歳の誕生日。自分の守護神を決める日の朝が来た。

 なんか変に鮮明な夢を見た記憶だけがある。アプロテが何か言っていたのは覚えてるんだが……まぁいいか。

 とりあえずエトナとケリーに手伝ってもらい、着替えて教会へ行く準備をする。実は内緒だがケリーとエトナにはまだお乳を貰っていた。勉強の後のご褒美として。


「4歳まで飲んでるなんて、ラフエル様ぐらいですよ」


 エトナはそう言って笑うのだが、二人は嫌そうな顔一つせずに飲ませてくれる。

 後で聞いた話だが、シルエ族は出生率が極端に低く、産まれた子供は一族総出で育てるのだそうだ。だから子供を産んでいないケリーやエトナでも必要があればお乳が出るらしい。長命であることや、もって生まれた魔力のせいではないかと言われている。


 まだ日が昇る前、教会へと家族で向かう。ゼレス、テテュス、ミハイル、サラエル、イリスにケリーとエトナも。

 俺の守護神を決めるのだ。

 普通は年の終わりに、その地域でその年に4歳になった子供を集めて合同で行われるのだが、そこは腐っても第3王子、教会貸し切りでやるのだ。


 本当は寄付金の問題で揉めるので、王族は単独でやるようになっただけらしいが。

 小さい町には合同の教会しかないらしいのだが、大きな町になると、父神、母神、兄弟神、老神、それぞれに教会がある。そのため、どの教会にどれだけの寄付が集まるのかで、協議されるらしい。


 そして俺は事前の打ち合わせ通り、父神の教会に入る。

 家族教会の中では主神にあたるようで、もっとも勢力が大きい。教会騎士なども父神を信仰することが多く、王族も基本父神であった。

 テテュスやイリスは母神だったようだが。


 教会の中で俺は1人で前に進み、祭壇の前で片膝をつく。

 結構な広さのある教会内に、お馴染みのベンチの様なイスが並べられ、そこに、清潔でそこそこ豪華な刺繍などが施された服などを着用している人たちが、隙間無く座っている。

 俺を祝うため……ではなく、父であるゼレスの印象を良くするために集まった、貴族や力のある商人などだ。

 その中には見知った顔である、優しいじいやみたいな顔をしたバルター将軍や、大臣のヘルテージもいる。

 バルターは俺を目に入れても痛くないと言わんばかりにかわいがってくれたが、ヘルテージはゼレスの前だとおべっかを言い、いなくなるとぶつぶつ文句ばかり言っていて不愉快な奴だった。

 当然俺が何も分かっていないと思っていたのだろうが。


 式は進行し俺が父神への誓いと、加護を得るための願いの言葉を述べる番になる。結構長めの台詞を言うため、緊張で口の中が乾く。


「心広き父なる神よ……」


 そこまでしゃべった瞬間、教会の扉が勢いよく開かれる。


「お待ち下さい!司祭様!」


 驚いて振り返ると、儀式のために閉じられた扉を勢いよく開き、10人ぐらいのシスターが深刻な表情をして息を切らすようになだれ込んでくる。


「なんなのです、ラフエル様の神託の儀の最中ですぞ!」


 恰幅の良い父神の司祭が、突然の事に仮面の様に張り付いた穏和な表情が崩れる。乱入者が兄弟神のシスターであることに気がつき、驚きを隠せないようだ。


「ペテラ司祭様!まさしく、その神託が降りたのです!」


 シスターの中で一番年長と思われる女性が前に出て告げる。

 その後ろでおろおろしているのは、兄弟神の司祭か。


「何を言っているのだ!」


 それはそれは司祭は驚いただろう。本当なら俺が述べた言葉の後に、父神よりの言葉として、祝いの言葉を述べて終わる予定だったのだ。

 俺が父神の信徒となった時に得られる寄付金を横取りしようとしている、そう考えているのが表情から見て取れる。


「お聞き下さい。昨夜私の夢の中に、兄弟神の娘神様が現れ、こうおっしゃられたのです「ポラルトの第3王子は妾の加護の元に」と!」


 1番年輩のシスターが、その時の光景を思い出したかのように、地面に伏して震えながら祈りを捧げる。


「馬鹿なことを。ラフエル様には父神様の元に――」

「シスターアンナだけではありません、私達の夢にも降臨され、第3王子ラフエル様の加護をと!」他のシスターが司祭の言葉を遮るように話す。


 私も私もと、押し掛けたシスターが涙を流しながら訴える。

 少し怖い光景だ。もし俺が本当に4歳だったら、怯えて泣いてるぞ?


「それは、(まこと)なのか?」ゼレスが驚いた顔でシスターの前に出る。

「過去に加護を受けたという話を聞いたことがありますが、神託の場で他の神より横やりが入るなど聞いたこともありません」

「しかし、1人か2人ならなんと言うことはないが、これほどの人数が1度に同じ神託を受けたとなれば、我が子ラフエルは兄弟神の娘神アプロテ様の加護を受けていると見て、間違いないのではないか!?」


 ゼレスが驚きながらも、喜びに溢れた表情で俺を抱き上げる。

 ん?あぷろて?


「お父様、確かにアプロテという名の女の人が、夢の中に出て来ました。兄弟神様なのでしょうか?」


 ゼレスやシスターの言葉で、昨日の夢が蘇ってくる。


(朝起きたら、ちゃんと兄弟神を信仰すると言うのですよ)


 夢の中でぼーっとしていたせいか、何のことを言っているかよく分からなかったが、これの事だったのだ。


(いいですか、お父様でもかまいませんが、ここは絆を深めるためにですね、兄弟神を……きゃっ!)


 何もない所で躓いて転んでいたのを思い出す。


「少し、頼りない感じでした」


 俺がそう言葉にした瞬間、後頭部を誰かにはたかれる。

 驚いて振り返るが、ゼレスに抱かれていることもあり、誰もいない。


「あぁ!今ラフエル様に娘神の御手が触れられたのが見えました!」


 年輩のシスターアンナが、涙を流しながらまた祈りを捧げる。

 触れるって言うか、叩かれたというか、突っ込み?


「なんと……」


 ペテラと呼ばれていた父神の司祭も、先ほどまでとは違い驚きの表情をする。


「どう言うことなのだ」ゼレスがペテラに小声で問いかける。

「アンナは教会に僅かしかいない、奇跡認定者なのです」

「奇跡認定者?」

「その目で神の奇跡が起こった跡を、瞼に映る残像のように見ることが出来るとされています」

「では、ラフエルが兄弟神より祝福を賜ったと見て間違いないのだな?」

「ことここに至っては、認定するしかありません」ペテラが神妙に胸の前で両手をあわせ、祈りの言葉を述べる。


 その後、ペテラは兄弟神の司祭を呼び寄せると、神託の議を引き継がせ、俺の守護神は兄弟神となった。

 父ゼレスは兄弟神への寄付を第一としたが、父神へも元々予定していただけ寄付を行い、双方の面子を保つように配慮した。


 兄弟神より直に祝福を賜った王子。このニュースで国中がお祭り騒ぎになった。

 そんなに大したことなのか?とも思ったが、国中の人が老若男女問わず嬉しそうに祝福の言葉をかけてくれるのは、とても嬉しい気分だった。



「ラフエル。何か欲しい物はないか」


 夕食の席でゼレスが俺に4歳の誕生日プレゼントとして欲しい物を聞いてくる。普通そう言う物は誕生日前に聞くんじゃないのかと思ったが、この世界では誕生日にお祝いをすると言う事自体が珍しいようだ。

 15歳での成人の儀は、盛大に祝うらしいが。


「……特には」

「まぁそう言わずに、考えておきなさい」


 ワインを飲んでにこにこ笑っている。俺が兄弟神より直々に祝福を受けたという事が嬉しくて仕方がないらしい。


 しかし、俺には誕生日の事などより、心を占めている問題があった。

 今日俺は4歳になった。その為、乳母のケリーが役目を終えて出て行くのだ。エトナは俺が泣きついたらそのままメイドとして残ってくれるのだが。


「なんで?このまま先生として残ってくれないの?」


 俺はケリーにも泣き落としを仕掛けた。いや、実際にケリーがいなくなると聞いて、本当に悲しかったのだ。


「ラフエル様、私ではもう残念ながらお教えすることが無くなってしまいました。これからはより上位の方に教えを請うか、教都の学校に通われるが良いかと」


 俺が一生懸命頑張りすぎたのだろうか?もう少しゆっくり学べば良かったのだろうか?


「じゃぁ、お城付きの魔法使いとしては!?ケリーならお父様も喜んで……」

「もう決めたことなのです。それに、私はラフエル様の先生として、まだまだ学ぶことは沢山あることがよく分かりました」

「……どこへ、行くんですか?」

「まだ行ったことのない、帝国を越えて東へ行ってみようかと思っています」


 そう言って少し遠い目をするケリー。


「遠い、ね」

「そうですね、ゆっくり行くつもりですから、数年はかかるかもしれません。ほらほら、悲しい顔をしないで。これで最後ではありませんよ?」


 ケリーが俺の涙を拭いてくれる。シルエ族のケリーにとって、数年はそう長い年月では無いのかもしれない。


「帰ってきてくれますか?」

「大きくなっていい男になっていたら、ね?」


 そういってケリーは俺のおでこにキスをすると、荷物を担いで笑顔で城を後にした。

 エトナが俺を抱きしめる。俺だけではなく、エトナも寂しいのだ。


「ケリーが帰ってきたら、いい男になって沢山驚かせてあげないとね」



 後日、祝福の件が教都まで伝わり、教皇が奇跡のあった教会へ祈りを捧げに来るという通達が来て、ポラルトは大忙しになる。

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