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1章1話 始まる世界

 絵の描かれた高い天井が見えた。宗教画だろうか?天使のような生き物が家族らしい5人の周りを飛んでいる。

 目線を横にやると、10代半ばぐらい、簡素だが清潔そうな格好をしたかわいらしい女性が、船を漕いでいる。栗毛を短くカットした髪型が活動的な印象だ。

 暑くもなく寒くもなく、窓から差し込んでいるらしい柔らかい光に包まれて気持ちよさそうだ。

 耳が長いのが気になるが、人を外見で判断してはいけないのだ。


「あぁうぅ」


 俺は体を起こそうとしたが、口から声が漏れるだけで自由に動かない。

 長い夢を見ていたような気がする。なんだっけな?


「あらあら、ラフエル様、起きられましたか?」


 俺の声で目を覚ましたのか、女性がベッドから俺を持ち上げる。


「姉さん、ラフエル様が」

「あら、おはようございますラフエル様」


 20代半ばぐらい、腰付近まである少しウェーブのかかった赤毛と、落ち着きのある少し濡れたような黒い瞳。

 とても色気のある美女が栗毛の女性から俺を受け取る。この人も耳が長いなぁ。

 あれ、なんだっけ、子供なんだっけ俺。

 驚いていると、信じられないことが目の前で起こった。


「おなか空きましたね、ラフエル様」


 そう言いながら、赤毛の女性はシャツのボタンをはずすと胸を出し、俺の顔の前に見事な胸を差し出してくる。

 うお!ご褒美!?あれ?最近も思ったな?そう考えた俺がとった行動は、とりあえず吸い付くことだった。

 何これ、少し甘みがあってすごくおいしい!いろんな意味でおいしい!


「ラフエル様はおっぱい大好きですね〜」

 

 先ほどの栗毛の女性が俺の頭を撫でながら、とても優しい顔をして言う。そもそも嫌いな男がいるのか聞きたいものだ。

 俺は赤毛の女性に頭を支えてもらいながら、たっぷりとお乳を堪能する。


「幸せとは、おっぱいが手の届くところにあることを言います」とは、俺の尊敬する人の言葉だ。誰だっけ?


 しかし、普通なら大興奮するするはずの俺の体は、全く反応がないのが嫌になる。いやまて、ここで反応があってもそれはそれで引く。


 しばらく何も考えずに楽しんでいると、扉がノックされる音がする。


「私だ、入るぞ」

「これはゼレス様」


 二人の女性はあわてて俺をおろして胸をしまうと、そばから離れていく。


 あぁ!俺の幸せが!


「おぉ、ラフエル、起きておったか」


 40歳過ぎ位のおっさんに抱き上げられる。

 うぉ、すごい落差だ!高さも絶望も!離せ!幸せを返して!


「なんだなんだ、そんな嫌そうな顔をするな!おとうたんですよ〜」


 え、まじで?一瞬きょとんとした顔で見つめてしまう。

 髭を蓄え、短く整えられた黒髪には、僅かに白いものが混じる。整ったと言っていい精悍な顔に、金糸銀糸などの高そうな装飾の入った服を着て、とても威厳がありそうなオーラを放っている。

 だが、今は俺を高い高いして、デレッデレの顔をしている。

 どうやら俺はこの人の子供として産まれたらしい。

 あれ?赤ちゃんって、こんなこと考えてたのか?


「もう、あなた、ラフエルが怖がっているではありませんか」


 そう言って俺を取り上げたのは、ふわふわの金髪を背中に垂らした、ほんわかした優しそうな美人だった。30代半ばだろうか。


 あなたって言ってるってことは、おかあさんですか!


「いやいやテテュス、怖がってなどいないぞ?喜んでいるぞ?」

「もう、だめですよ〜」


 そう言ってテテュスお母さんが俺を抱きしめて頬ずりする。

 体に当たるふくよかな幸せがすばらしい。


 自分で言うのもなんだが、赤ちゃんって、こんなエロいこと考えてるもんなのかな……まぁ、子供の初恋の相手は母親だと言うし?なんか違う気もするが。


「父上母上、またラフエルをかまっているのですか」


 また誰か入ってきた。


「おぉ、ミハイルか。良いではないか、今日は忙しいわけで無し」


 そう言いながら、テテュスから取り戻した俺を、少し名残惜しそうにベッドに戻す。


「まぁそうですが」


 ミハイルと呼ばれた青年が、ベッドの俺を見下ろすようにのぞき込む。

 歳の頃は20歳ぐらい?父親を若くしたような顔をしており、短い黒髪がさわやかな印象をうけ、精悍でイケメンと言って差し支えない顔をしている。


「しかし、泣きませんね。大丈夫か、おい」


 そう言って俺のほっぺたを指でグリグリしたり、無造作に持ち上げようとしたりする。あぁ、頭が重い。


「あー!兄さん何してるの!まだ首が据わってないんだから、そんな持ち方しちゃだめですよ!」


 また誰か来た。騒がしくて少し疲れてきた。


「もう、こうやって首の後ろに手を回して」


 そう言って入ってきた少年が俺を受け取って抱き上げる。背中をトントンとされるとゲップが出る。


「サラエルはなんでそんなに慣れているんだ」

「イリスが産まれたとき兄さんは教都に行っていたけど、僕は母上を手伝ったからね〜」


 確かに慣れているのだろう、サラエルに抱き上げられるのは嫌な感じはしなかった。

 歳の頃は10代半ばか?短めのふわふわくせっ毛金髪に、とても愛らしい顔立ちをしている。

 でも、残念なことに胸の感触から男だと言うことが伝わってくる。


「あ〜、お兄ちゃんばっかりずるい!イリスも抱く!」


 また増えた……今日目覚めて、これではさすがに疲れる。


「イリスはまだだめだよ!首が据わらないと危ないから」


 そう言ってサラエルが俺をベッドに戻す。


「え〜、私も何かしたい〜!」


 ベッドの横でだだをこねるながら、俺をのぞき込んでくる。

 6、7歳ぐらいだろうか。黒髪長髪前髪ぱっつんの美少女だ。

 どうでもいいけど、この家族美形ぞろいだな。王族は配偶者を自由に選べるから、美形になるとか言う話を聞いたことはあるが……俺は、俺はどうなんだ!?


「じゃぁイリスおねぇちゃん、ラフエルに子守歌を歌ってあげて」そう言ってお母さん、テテュスに促される。


「しょうがないなぁ」


 少しすましたように咳払いして立つ。


「ね〜る〜子は育つ〜、ね〜ない子はゴブリンにまるかじり〜」


 怖っ!子守歌怖っ!寝れるか!と思ったのだが、お腹が膨れて疲れたのか、イリスに撫でられて気持ちよく意識が遠のいていく。



 イリスの暖かい手とかわいらしい声が実に気持ちいい(歌っている内容はあれだが)。しかし、寝ているにも関わらず、意識が浮かび上がってくる。


 白い空間に横たわっていた。

 少女が目の前に立っている。

 あれ、これ、前にも。


「何を鼻の下伸ばしてるんですか」


 あ。

 全部思い出した。なんか赤ちゃんだと少しもやっとするんだよね。


「もやっとじゃないでしょう!もう、なんですか、胸が大きいぐらいで!もう!」


 少女を見ると、ぺったんこだ。


「誰がぺったんこだ!発展途上と言ってください!」


 はい、私は小さい幸せも大事にする、小市民なので大丈夫です。


「まったくもう」


 なぜかプンプン怒っている。

 どうしたんですか、胸のことで怒りに来たんですか。


「ちーがーいーまーすー!強くてニューゲームの事で、連絡することがあるので伝えにきました!」


 無い胸を反らす。

 そう思った瞬間、胸を隠す少女。

 思ったんですが、お名前を聞いてもよろしいですか。


「……え、知らないとは思わなかったわ……アプロテよ」


 そうなんですか。アプロテさん。

 名前を呼ぶと少し顔を赤らめる。


「と、とりあえず強くてニューゲームの話なんだけど」


 はい。あこがれます。無限ロケットランチャーとかLv99で駆け抜けるとか。


「それなんだけど、さすがにそれはダメだったわ」


 え、話が違います。


「仕方ないじゃない。さすがにいきなり赤ん坊がそんな力持ったら、世界がむちゃくちゃになるわ」


 そりゃそうかもしれませんが……


「だから、とある条件の下に、あなたの潜在能力を引き上げておきました」


 潜在能力?条件?


「はい。あなたが何もせずにだらだらした毎日を過ごすようであれば、あなたはただの人で終わります」


 まぁ、前世での俺ですね?


「ですが、あなたが本気で何かに取り組むとき、その能力は努力すればするだけ花開いていくでしょう!」


 それって普通のことじゃないんですか?


「一定のラインまではね。でも、あなたの限界はとても高くしてあるわ。だからがっかりさせないでね!」


 ちょ、ちょっと、それはものすごく努力しろと、そう言うことですか!?


「そうです!」


 わかりました。で、条件というのは?


「まぁ、条件と呼べないような物なんですけど」


 ???


「私たち神の威光を知らしめるため努力すること」


 ……神様、だったんですね。


「だったんです。偉いんですよ?まぁ、この条件も私と添い遂げるようになれば、自ずとクリアになります」


 あぁ、はい、努力します。というか、添い遂げる?


「がんばって下さい!」


 え、ちょっと……



 それが俺、ラフエル・ド・ポラルトとして、記憶に残る初日だった。

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