【特別編】イラスト&小話(秋の一日)
黒瀬もぎ様より、美麗なイラストを頂いたので押絵にして小話を作ってみました!
時系列的には、本編後編の未来が風邪を引いて後の話になります。
「ランドセルなわたし」黒瀬もぎ様より、素敵な押絵を頂きました! ありがとうございます!
【小話・秋の一日】
校庭のイチョウの木から、ひらひらと葉が落ちてくる。
地面が少しずつ黄色に染まっていく様子がなんだか綺麗で、校舎の壁際に立ちながらそれを眺めていた。
つい先日まで風邪を引いていて、家にこもってばかりいたので、澄んだ空気が胸に心地いい。
少し視線を上げれば青空が遠くて、秋だなぁと思った。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
秋吉さんの声に振り返る。
「瀬尾先生に用事って何だったの?」
「学芸会に民族調の音楽が欲しいとの事だったので、そのデータをCDに焼いて渡してきました。本当はそれだけのつもりだったのですが、少々荷物運びを手伝わされてしまいまして。これなら教室で待っていてもらえばよかった」
尋ねたわたしに、秋吉さんは後悔の滲むような声でそんな事を言う。
部外者の校内活動許可証まで貰っていた瀬尾先生に、学芸会で使う大きい資材の移動を手伝わされたらしい。
この学校は男手が少ないので、瀬尾先生はきっと秋吉さんに最初から頼むつもりでいたんだろう。
「別に平気だよ。待ったって言っても十分くらいだし」
「ですが、姫はこの前まで風邪をひいていたでしょう。体は冷えてませんか?」
「うんだいじょ……くちゅん!」
大丈夫と言おうとして、くしゃみをしてしまう。
秋吉さんが申し訳なさそうな顔をした。
「あぁやっぱり、冷えてしまったのですね。そうだ、これを着てください」
そう言って、秋吉さんがスーツの上着を脱ぎ、わたしのランドセルに手をかける。
「いいよ、別に寒くないし。秋吉さんの方が風邪ひいちゃう」
「お願いします、姫。体を大切にしてください。本来ならもっと家で休んでいてほしいくらいなんです」
本当に寒くなかった。
けれど、お願いしてくる秋吉さんの言葉の中に、不安そうな色を見つけてしまう。
「またあなたが倒れてしまったらと思うと、想像しただけで怖いんです」
秋吉さんがわたしの前に片膝を折って、手をとると温めるように包み込んでくる。
その手が震えていて、瞳の奥が何かを恐れるように揺れていて。
わたしが倒れた際の、必死な秋吉さんの顔が頭に浮かんだ。
「わかった」
心配してくれている。
それが嬉しくて特別なことに思えた。
素直にランドセルを渡し、スーツの上着を受け取る。
秋吉さんの服は、当たり前だけどぶかぶかだ。
スカートまで隠れてしまって、わたしが着るとコートみたいだった。
「やはり大きいですね。裾をまくりましょう」
秋吉さんが袖を折ってくれて、ちょこんとわたしの手が黒いスーツから顔を出す。
さっきまで秋吉さんが着ていたからか、ほんのりとぬくもりが残っていて、不思議な気持ちになった。
ふわりと漂う、爽やかで少し甘さの残る香りは、落ち着いた大人の男の人を思わせる。
秋吉さんをすぐ近くに感じて、物凄く安心感を覚えた。
「どうかしたのですか、姫?」
無意識のうちに、表情が緩んでいたみたいで、秋吉さんがわたしを見て不思議そうな顔をしていた。
「なんだか秋吉さんの香りがして、ほっとするなぁって思って」
「……そうですか」
笑ってそう言えば、秋吉さんは驚いた顔をしてあと、ほんのりと目じりをさげて優しく笑い返してくれた。