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【番外編4】3人でデート・後編

 その後、私は二人といろんなアトラクションを周った。

 コーヒーカップでは、はしゃぐわたしと瀬尾せお先生に対して、秋吉あきよしさんはぐったりしていた。

 池を回るボートでは、景色を見るというよりも両端にいる二人との距離が近すぎてなんだかドキドキした。


 いつになくテンションが高い瀬尾先生に、わたしが乗っかる。

 秋吉さんがしかたないですねと付き合ってくれる。

 そんなやりとりが、何故か妙に懐かしくて、とても楽しかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「若槻。あれに乗ってみないか?」

「はい。乗ってみたいです」

「マジで?」

 にやにやとした先生の言葉に頷くと、冗談のつもりだったらしく、ちょっと焦った様子になった。


 先生が指を指した先には、メリーゴーランド。

 おとぎの国をぎゅっと詰め込んだような、可愛らしい乗り物。

 昔お祭りに小さなメリーゴーランドが来ていたことがあって、その時に乗れなかったからずっと憧れみたいなものがあった。

 本来は、もっと小さい子供が乗るものかもしれないけれど、まだ四年生だし大丈夫だろうと思う。


「よしここは秋吉に譲ろう。俺はここから二人の写真を撮ってやるよ」

「言いだしたのは先輩ですから、未来みくと行って来てください。あなたの愛馬にそっくりな白い馬もいますよ」

 デジカメを奪い合うようにして、初めて二人は譲り合う。

 どうやらメリーゴーランドに乗るのが恥ずかしいみたいだった。


「できれば三人で乗りたいな。駄目?」

 嫌ならしかたないけど、一人で乗るのは心細い。

 見上げるようにして言うと、二人はうっと声を詰まらせた。

「……未来がそう言うのなら」

「しかたねぇか」

 しぶしぶと言った感じではあったけれど、二人はそれをオッケーしてくれた。



 その後はどちらの馬に私を乗せるかで言い争い、そもそも二人乗りは駄目ですと係りの人に言われて、微妙な顔になる二人が面白かった。

 結局先生は王子様らしく白馬に乗って、秋吉さんはイメージピッタリな黒馬で、私は馬車に乗りながら、二人の写真をとった。


 お腹が空いてきたので、かなり遅めの昼食を取ることにする。

 先生から借りたデジカメの画面を見返すと、並んで馬に乗る大の大人二人。

 ヤケクソ気味な笑顔の瀬尾先生と、恥ずかしいのか眉間のシワがさらに増えた秋吉さん。

 なんだか微笑ましくなる。


「誰だよメリーゴーランド乗ろうとか言い出した奴は……」

「先輩ですよ。まぁ、未来が満足したようなので、いいということにしますが」

 瀬尾先生に対してツッコミをいれる秋吉さんの声には、ハリがない。

 二人ともちょっと疲れた様子だった。

 

 デジカメは基本的には先生が持っていたのだけど、他にもどんな写真があるかなと見てみたら、ほとんどわたししか映っていなかった。

「先生、この写真ほとんど秋吉さんが見切れちゃってるよ?」

「しかたねぇだろ、身長差あるんだから」

「全身が映るくらいに、私たちから離れて歩るけば大丈夫ですよ」

 わたしの問いに対して先生が答え、秋吉さんがアドバイスする。


「そんなことを言ったら、写真分けてやんねーぞ。お前一枚も持ってないだろ」

「……なんですか、あなたは持っているとでも言いたげですね」

「まぁな。春の遠足の時には、ツーショットで写真を撮ったな」

 何故か先生は自慢げで、秋吉さんが悔しそうに見える。

 そんなところで喧嘩しないで欲しいと思ったところで、わたしはふと気がついた。


「そういえば、三人で写真まだ撮ってない!」

「あぁ、そういえばそうかもな」

「確かにそうですが、それよりも先に私も未来と二人で写真を撮りたいです」

 わたしの言葉に先生が今気づいたというような反応をし、秋吉さんが真剣な目で私にお願いしてくる。


 先生がなら写真撮るのに人気の場所があると、城の形をしたアトラクションの前に連れて行ってくれた。

「ほら、秋吉。望みどおり若槻との写真を撮ってやってるんだ、もっと笑え。なんでそんな凶悪な顔してるんだよ」

「これでも笑ってるつもりなのですが」

 秋吉さんはあまり写真が得意ではないらしく、一緒に撮りたいといったものの、ちょっと照れてるみたいにも見えた。


 横を見ればカップルたちが腕を組んで、写真を撮っていて。

 私は勇気を出して、横で棒立ちになっている秋吉さんの腕にしがみついた。


「っ、未来!?」

「こうやったら、ちょっと恋人っぽいかなって。駄目……かな?」

 驚いた秋吉さんの気配。

 窺うように見上げると、その表情が柔らかく解けていく。

「……いえ、嬉しいです」

 時々しか見ることのできない、秋吉さんの極上の笑顔に。

 ぱしゃりと先生がシャッターを切る音がした。


「ったく、見せ付けてくれるよな。まぁいいけど。ほら秋吉、隣代われ」

 先生と秋吉さんが位置を交換する。

「なにさりげなく未来の肩に手を置いてるんですか、馴れ馴れしい」

「いやだって俺、若槻と仲良しだし。なんだよ、心の狭い彼氏様だな。俺が王子の時は、頬にキスまでは許してやってただろうが」

 秋吉さんに対し、先生はちょっと呆れたような顔だった。


「王子、まさか記憶が?」

 秋吉さんの言葉に、先生ははっとした顔になる。

 ついうっかり口がすべったというようだった。

 実は先生には前世の記憶がある。

 けれど何故か秋吉さんにそれを言いたくないようで、隠していたのに、今日は気が緩んでしまったようだった。


「あーなんかそんな気がしただけだ。絵本の姫と騎士ってそんな感じだろ。ほらさっさと写真とれ秋吉」

 そんな絵本見たことがないとわたしは思ったけれど、先生に急かされて秋吉さんがシャッターを切る。

 あまり納得してない様子で、秋吉さんが先生に話しかけようとした時、遊園地のスタッフらしき女の人が声をかけてきた。


「よければ、三人でお撮りいたしましょうか?」

「タイミングいいな。秋吉、こっちこいよ。俺の隣な」

 スタッフの申し出に先生がそう言って、私がいない方の開いたスペースを示す。


「何言ってるんですか。私は未来の隣と決まっています」

 デジカメを預けてこちらへ走ってきた秋吉さんは、先生に張り合うように私にぴったりと寄り添った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 もう一度ジェットコースターに乗りたいと私が言って、待っていてくれればよかったのに一緒に乗った秋吉さんは、ダウンしてしまった。

 先生はドリンクを買いに行ってしまったので、私はベンチに座る秋吉さんの目元に濡らしたハンカチを置き、その側に座る。

「すいません、未来」

「気にしないで」

 わたしに謝る秋吉さんは、とてもすまなさそうにしていた。


「……今日は、楽しかったですか?」

「うん、もちろん!」

「そっか。よかった」

 少しハンカチをずらすようにして、こちらを窺う秋吉さんに、満面の笑みで答える。


「本当は……今日は、先輩と二人で遊園地に行く予定だったんです」

「えっ? 瀬尾先生と秋吉さんの二人で?」

 思いがけない言葉に、わたしはつい聞き返してしまう。

 秋吉さんはハンカチでまた目元を隠してしまった。


「私はこの世界に生まれ変わって、遊ぶということをあまりしてきませんでした。前世でも女性を楽しませるデートというものをしたことがありません。ですから、いざ未来をデートに誘おうとしても、未来を楽しませることができるか心配で、こういうことに長けている先輩から、習おうと思っていたのです」

 恥ずかしいことを告白するように、秋吉さんはいっきに吐き出した。


「万全に準備して、未来をエスコートできるようになってからデートに望もうと思っていたのに、いざ待ち合わせの場所に行くと未来がいて。本当に驚きました」

 だから秋吉さんはあんなに動揺していたのかと、納得してしまう。


「こんなの、情けないでしょう? 大の男が幼いあなた一人喜ばせることもできない。先輩の方がもっとスマートで、あなたも一緒にいて楽しそうだった」

 秋吉さんは自分を情けないというように、呟く。


「そんなことないよ、秋吉さん。それにわたしを楽しませたかったんだったら、先生に頼む必要もなかったと思う。だって、秋吉さんと一緒なら、どこだって楽しいもの」

 わたしを喜ばせようと、一生懸命になっていてくれたことが嬉しかった。

 瀬尾先生と水族館へ行ったあの日、秋吉さんはわたしを近くの公園へ連れて行ってくれた。


 秋吉さんから指輪のネックレスを貰って、二人で落ち葉を踏みしめながら公園を歩く時間は、何もなくてもとっても幸せなものだった。


 もたれるようにベンチに座っていた秋吉さんが、わたしの言葉に起き上がり、目元のハンカチをどけた。

 それから少し潤んだ目で、わたしを見つめてくる。


「あなたは、どうしていつだって私が欲しい言葉をくれるのですか。甘やかして、私だけを見てくれるようにしたいのに、私ばかりが甘やかされて、どんどん離れなくなっていってしまう」

 秋吉さんは困ったように笑いながら、距離を詰めてわたしの頬をそっと撫でた。

 その手つきがすごく優しくて、どきりとしてしまう。


「俺をのけ者にして、いい雰囲気だな」

 気づくと、ふてくされたようにしゃがむ瀬尾先生が、そこにいた。

 手には三人分のドリンク。

 いつから見られていたのかと、思わず秋吉さんから離れた。


「いい雰囲気だとわかっていたなら、邪魔はしないでください」

「わかったから邪魔したんだよ。ほら飲み物。元気になったようでなによりだ」

 わたしと秋吉さんの間に入るように、瀬尾先生がベンチに腰掛けて、飲み物を手渡してくれた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「おー綺麗だな」

「ですね」

「うん、綺麗!」

 夜になって、花火が上がる。


 瀬尾先生が穴場だという場所に連れていってくれて、見上げた夜空には色とりどりの花が咲き誇っていた。

 城をバックに咲く炎の花は鮮やかで、消えていってしまうのがもったいないと思う。


 横をみれば秋吉さんと、瀬尾先生がいて。

 こういうことが前にもあったような、そんな気がした。

 秋吉さんや先生から聞いた話だと、前世の二人は恋敵でライバルということだったけれど、実は結構三人で仲良くしてたんじゃないかな、なんて思う。

 

 そうじゃないと、今日初めて三人で遊んだはずなのに、この時間を懐かしくて、愛おしいと思う理由がよくわからない。

 先生はいつもよりも子供っぽくて始終楽しそうだったし、困り顔をしながら私達に付き合う秋吉さんも、実は楽しんでいたんじゃないかなって思う。


 そう思ったら、今の時間がとても大切なものに思えてきて。

「秋吉さん、先生。今日はつれてきてくれてありがとう」

 こっちを見た二人の手を、わたしはきゅっと握った。

長かったので、前編と後編に分けました。

これにて一旦、ランドセルシリーズの更新ラッシュは終了です。

少しでも楽しんでいただけたのなら、嬉しい限りです。

12/12 王子の方の更新に伴い、先生の発言を修正をしました。

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「王子はランドセルな姫の幸せを願う」瀬尾先生視点の過去話もよければセットでどうぞ。裏側が見られます。
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