4 初めての敵との遭遇
引っ張られるように馬車の集まっているところに連れて行かれた。
「長、こちらも準備ができました。後のことは馬車の中で説明します」
何言ってんの、準備なんて一切してないだろ。てか馬車に乗るのかよ。ダンジョンの近くで呼び出せや。
「うむ。では今すぐ出発する。今日は野営をして明日の昼にはダンジョンに到着する。みな慣れている道だからからといって油断をするでないぞ。今回はいつもは現れない種類の高レベルモンスターを見たからな。何かを探しているようじゃった。刺激しないようにな」
今高レベルモンスターうろついてんのかよ。初心者いるんだぞ、空気読めモンスターめ。スライムよ出てこい。歓迎するぞ、倒すけど。
「長、私はハルと共に真ん中の馬車に乗らせていただきます。仮の武器などをあつらえなければなりませんので」
「わかっておる。野営の時に少し手ほどきしてあげなさい。勇者が戦えなければ意味ないからな」
真ん中の馬車か、ひとまず安心だ。一番前とかに乗せられたらどうしようかと思ったわ。野営までなるべくモンスターに会いませんように。
「では出発する」
一言ラティオがそう言えば俺は乗せられたが全員が馬車に乗り、馬車が動き出した。荷物を多く積んでいるのか馬車の動きは遅い。牛が歩いているかのような速度だ。
外の景色もゆっくりと流れていく。地球とは全然違う神秘的な風景が広がっている。移動手段が電車か車ばかりだった時には一切外は気にしていなかった。気にする要素もなかったといえるが。
フェイランスは魔法のおかげで化学が殆ど発達していないから地球に来たら俺と同じで驚くに違いない。この速度で進んで明日の昼には着くということは意外と近かったのかもしれない。それにしたって普通に早歩きした方が早いっていうこのスピードはどうかしている気がする。だが俺の思考は中断させられた。
「じゃあハル、とりあえずお前には本物の勇者の剣より少し軽い剣を渡しておく」
レオナから一本の長剣を渡される。持ち手は木でできているが刀身は鉄でできている立派な武器だ。ずっしりと重いが何となく手になじむ。やはり剣を扱う勇者だからか?
「レオナは剣の重さとかわかるんだな。勇者の剣を持ったことがあるのか?」
「私は剣に触れたことはないわ。剣を手に入れることのできた勇者にいろいろな剣を持ち比べてもらったのよ。勇者の剣は相当重いらしいわ」
今持つ剣も重くて振れるかどうかわからないのにこれより重いとか……!
「野営する場所に付いたらみっちり仕込んであげるわ」
なんとなくレオナの顔が輝いているような気がする。
「すごく遠慮したい」
「あなたすごく鍛えがいありそうでしょ。私楽しみなのよ。明日ダンジョンに入るころにはその剣振れるようにしてあげるわ」
フフフと笑うレオナの顔は実に悪そうだった。本当に遠慮したい、全力で。俺は命を削りたくはない。このままだとモンスターと戦う前に死にそうだ。
「ありがとうございます。死なないように気を付けます、全力で。」
そうして頂戴と言って寝転んでしまったレオナ。三人くらいは寝転べそうな馬車はなかなか内装が立派だ。ソファが向かい合って置かれている。
俺も気張ってないで休んどくか。野営のとき寝る寸前までしごかれそうだ。
俺も寝ようかとソファに寝転がった瞬間馬車が止まって誰かの大声が響き渡った。
「モンスターが出たぞ! 数15匹……戦闘用意!」
モンスター! ていうか急じゃね? ここモンスターでないとか言っていたとこからほとんど移動してない気がする。俺は出ていかないほうがいいよな、剣の持ち方も知らないし……。
「ちょっと、早く準備しなさい。行くわよ」
え……?
「俺も行くのか? 邪魔なだけだろ。俺ここでおとなしくしてグエッ!」
後ろから制服の襟を掴まれて引きずられる。変な声でた。
「苦しい苦しい! 結構な数の敵がいるんだから俺邪魔だろ! 人の数よりモンスターの数のほうが多いし」
何言ってるんだという顔をされる。だが正論だ。
「練習より実戦あるのみよ」
実践だよ怖い。いきなりやったら死ぬだろ。だが俺の抵抗むなしく引きずられ続けついに馬車の外に出た。
俺の目の前に現れたのはゴブリン。ダンジョンのモンスターよりは初戦向きだけど初めての俺に倒せるのか……。
「とりあえず、剣を振りまわしなさい。ゴブリンのほうに刃を向けとけば何とかなるわ」
それじゃと言ってレオナは走って敵に向かって行ってしまった。せめて近くにいろ。俺のこと捨てていくなよ、おい。ていうか目の前に3匹いるんだけど。死にたくなければやるしかない。
どうせ死ぬなら全力でやれ。あ、なんかかっこいい……、自分で言っててなんだけど。これから座右の銘にしよ。