2 名前あんま好きじゃない
「はて、今何と言ったかの? もう一度行って下され」
「へ? ああ何でもないです! 独り言です、独り言」
相手が日本語を喋って英語を理解できないというのが信じられないのか驚く。まあ話した英語がカタコトすぎたのかもしれないが。
「ようこそ、我らの世界『フェイランス』へ、勇者よ」
告げられる言葉に頭がついて行かない。風が間を吹き抜け草木を揺らし、時間だけが過ぎていく。
「俺が……勇者? そんなバカな。ありえないよ」
顔が疑問と警戒の色に染まる。周りの人間たちは何も動じない。
「そなたが勇者なのは間違いない。我らが勇者を呼ぶ儀式によって呼ばれたのだからな。とりあえず我々についてきていただきたい。勇者の剣を渡さねばな」
「ちょっと待てよ!俺は着いていかねーよ。元の世界へ帰せ」
最初は使っていた敬語はすでにない。手を強く握り、嫌悪感かにじみ出る顔を見ればそれはもう深刻な問題を抱えているように見えるが頭の中はゲームのことしかない。
「すまぬな、我等は勇者を呼べても帰すことはできない。それは勇者に加護を与える精霊様の仕事じゃ」
「あなたは我々についてくるしかないのです。このままここにいても餓死してしまいます」
畳み掛けるように話し続けるジジィに諦めたようにため息をつく。
「わかったよ、行けばいいんだろ。その精霊様に会えば帰れるんだな?」
「正しくは魔王を倒して精霊様のお役にたてば、です」
は? 魔王がいんのか。まあ王道っちゃ王道か。ていうかこれ完全にゲームじゃね? おれの愛してやまないRPGじゃね? 今目の前にいる集団村人の主人公を旅に送り出すその他村民的な役割だろ。これは……楽しむしかないだろ! いやー、顔がにやけるわー……。
「じゃあとりあえず自己紹介しようぜ。俺は春川聖。この世界での俺については俺よりお前たちの方が知ってるだろ」
「我らは西の国シェルヘンの神官にあたるパティエスの民族じゃ。儂は長のラティオじゃ。我らは全員で100人ほどの民族だが今来とるのは10人ほどじゃ。魔力の扱い、戦いに長けた者を連れてきておる。」
たった100人の民族か……。地球だったらすぐに滅ぼされてしまうな。それも魔力ということは魔法が使えるということだ。戦いもできるということは手を出せないということか、それとも国からもらっている神官という名が本当で厚い保護を受けているか、だな。
「ハルカワヒジリとは変な名前じゃのう。名前はハルカワでいいのか?何とも呼びにくいが……」
あー、一応外人だしな。俺自分の名前あんまり好きじゃないしそれでもいいか。
「ああ、呼びにくければハルとでも呼んでくれ、ラティオ」
「そうじゃな。ではハルと呼ばせてもらおう。して、家の名は名乗らん方がいい。この世界では家の名を持つのは貴族だけじゃ。ハルが元の世界で貴族だったのだとしてもこの世界いはその後ろだけはないからのう」
名字を名乗るのは貴族だけ、か。やっぱり日本とは違うな。いや、異世界、それもRPGのような世界であるなら普通か。
「わかった。この世界ではハルと名乗るようにするよ」
貴族といざこざを起こしたり調べられたりしたらめんどくさいからな。出もわからないようにしとくのが得策だな。ゲームの鉄板だ。
「それで、ハルに紹介しておきたい者がいる」