サヨナラの言葉を
愛する―――へ
『今、貴女はどうしていますか?風邪は引いていませんか?怪我をしていませんか?僕はいつも貴女のことを心配しています。
今は戦争中なので帰っては来れません。貴女に僕は会いたい。貴女の笑顔が見たい。生きて帰ってきます。
桜の花が散る頃にまた会いましょう。
貴女を愛してる。』
――――――
「「「大日本帝国万歳!!!」」」
「「「バンザーイ!!!」」」
人々が日の丸の旗を掲げ軍服をきた若き兵士達を見送る声が聞こえた。僕はその姿をじっと見つめる。すると僕に気づいたのか一人の男性が僕に声をかけた。
「おぉ!!遊作くんじゃないか!元気かぁ?」
「お久しぶりです。今田さん...。」
僕は今田さんに言葉を返すと今田さんは僕に苦笑気味で答えた。
「...そういえば君のところにも来たようだね。赤紙。」
「えぇ。次来る電車に乗ります。今までお世話になりました。」
僕はお辞儀をする。今田さんは震えた声で涙声で僕の肩を掴みながら言う。
「本音を言うと君を行かせたくはないがね。」
「今田さん。気持ちだけでも受けとっときます。そんなこと言ったら非国民扱いを受けますよ。」
相変わらずの今田さんの泣き虫さに僕も思わず苦笑してしまう。
「あぁ...。今からもしかして千尋ちゃんの元に行くのか?」
今田さんが言いにくそうに答えた。僕は静かに頷く。
「アイツにも会っとかないと...。例え記憶がなくともね。」
僕は不意に空を見上げながら言った。
僕が千尋に会ったのは今から2年前のこと...。僕の家は豆腐屋だったから店の手伝いをしていた。ある日僕はカッコ悪く転けてしまって...。その時、可愛い微笑みを浮かべながら手を差し伸べてきたのが千尋だった。僕は一目惚れしてしまい千尋と話してその5ヵ月後、ようやく千尋と恋人になれたのだ。
そこからは幸せさ。いろんな所行って知らないことを教えて教えられて...。僕も彼女も幸せだった。でも突然、彼女が軍の車に引かれてしまい意識不明の状態だった。その3ヶ月ぐらいたったある日彼女は目覚めた。
...しかし、彼女は記憶をなくしていた。当然、僕のことも忘れてる。
あれからもう、3ヶ月は立つ。千尋は現在、実家におりひっそりと暮らしている。僕は千尋に会うのが怖くて会いに行かなかったが遂に僕にも赤紙が届いた。
―――――
千尋のことを思い出していると目的の場所へと着く。僕は玄関の前まではきたのだがやはり会いにくい。僕が困っていると後ろから女の人の声がした。
「あら?もしかして遊作さんかしら!」
「お久しぶりです。」
僕は千尋の母である美里さんに頭を下げた。
「久しぶりね本当に。...千尋はまだ記憶が...。」
「わかってます。遂に僕にも赤紙が届いたんですよ。だからさよならを言いに...。」
「えっ?」
美里さんは驚きの声をあげながら僕を見る。僕は苦笑を浮かべた。
「うそっ」
「嘘ではないですよ。」
美里さんは涙を流した。僕はそれを静かに見ていた。
「わかったわ...。千尋をよんで来るわね。」
「ありがとうございます。」
あぁ、やっと千尋に会える
―――――
「千尋、お客様よ。」
私は玄関を開け遊作さんを中に入れ千尋を呼んでくる。千尋は居間に座って上を見上げていた。
「お客様?」
「そう、行きましょう。」
千尋の腕を掴み立ち上がらせ玄関で待つ愛しい人の元に連れて行った。
―――――
玄関で待っていると美里さんの後ろに黒髪の美しい女性がいた。
...千尋だ。
「こんにちは、千尋さん。」
「こっこんにちは。」
僕が微笑みを浮かべながら挨拶すると千尋も返してくれた。
「千尋、この人は軍人さんなんだって。」
「えっ?軍人さん?」
美里さんの言葉に千尋は僕を見ながら言う。
「えぇ、今日出発するから千尋に元気もらいたいからって。」
「はい。千尋さん僕は今日、戦地に行って来ます。」
僕は泣いてないよな。千尋にそう言うと千尋は僕を見て一言行った。
「行ってらっしゃい。」
千尋は僕にあの出会った時のように可愛い微笑みを返してくれた。
「ありがとう。」
その言葉だけで僕は生きていけるような気がしたんだ。どんな辛い場所でも...。
「それではそろそろ行きますね。ありがとうございました。」
美里さんは泣きながら頷く。僕は頭を下げ玄関を出る。
「待って!!」
僕は声のした方を見ると千尋が僕の腕を握っていた。
「私は本当は兵隊さんは嫌いです!!でもあなたは違う!行ってきてほしくありません!!」
千尋は泣きながらそう言った。...記憶にはないが心が僕を覚えているのか?
「ありがとう。でも行かなくちゃ。君は幸せになってね。」
「生きて!生きて帰ってきて!!」
僕は千尋に幸せになってほしい。だが千尋は泣きながら僕に訴える。...生きてほしいと...。
「ありがとう、ありがとう!!」
僕は精一杯の気持ちで言った。千尋は笑顔を浮かべ笑っていた。
僕はもう、あなたの元には帰って来れないかも知れない。その時はゴメンね。でもね千尋、僕は君の元に帰って来るから。もし、生きて帰って来れたのならその時は言うよ。
「愛してます。」