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乱世を往く!  作者: 新月 乙夜
第十話 神話、堕つ
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第十話 神話、堕つ②

おかげさまでお気に入り登録件数が2200件を突破しました!


これも読んでくださる皆様のおかげです。

どうぞ最後までお付き合いください。

 ストラトス・シュメイルを大使とするアルジャークの使節団二十名ほどが、アナトテ山の麓に広がる神殿の御前街に到着したのは三日前のことである。


 御霊送りの儀式はクロノワのもとに招待状が届いた時点ですでに準備が始まっており、儀式に間に合うよう急がなければならなかったため行きはかなり強行日程であった。


 文官のストラトスは馬術に優れているわけではなく、最初の一週間ほどは筋肉痛に悩まされた。ただ護衛として同行した女騎士グレイス・キーアによるスパルタな猛特訓のおかげか、サンタ・シチリアナに入った頃からは自分でも馬術の向上を感じることができ、それは一つ収穫かもしれない。


「何か私に恨みでもあるんですか!?」

「なにを言うのです、ストラトス大使。儀式に遅れるようなことがあれば、アルジャークと陛下の顔に泥を塗ることになるのですよ?そんなことになれば大使の将来は真っ暗です。私は大使の将来のために、こうして馬術をお教えしているのです。日ごろの恨み!とか思っているわけないじゃないですか」


 ストラトスの悲鳴はグレイスの鉄壁の笑顔に跳ね返されて空に消えた。ただ、これがきっかけになって、この後ストラトスが仕事をサボる際に馬を使うようになったのはグレイスとしても誤算であった。まったく、転んでもただでは起きない男である。


 さて、頑張ったかいあってか、ストラトスたちは儀式が催されるちょうど一週間前に御前街につくことができた。つまり四日後に御霊送りの儀式が執り行われることになる。


 ただその四日間をだらだらと自堕落に過ごせるかといえば、無論そのようなわけはない。儀式に出席するのは神聖四国を始めとする各国の要人たちである。そのような者たちが集まる以上、その場ではいやおなしに政治的な思惑が交錯することとなる。早い話が腹の探りあいである。それは儀式の前から始まっているのだ。


 ストラトスたちは御前街に着くとアルジャークの使節団が用いるに相応しいと思えるホテルの一画を貸しきり、次々と訪れる来客に対応していた。また神殿に出向いて枢機卿と会ってみたり、各国の要人たちとの会合に出席してみたりとなかなか忙しい。


 ストラトス個人の思いとしては、そんなもの全て放り出してのんびりしていたい、というのが正直なところである。彼はクロノワやラシアートが、教会との結びつきを強めるつもりのないことを察知している。生来の怠け癖を差し引いても、これではこの場での外交行脚に力が入らないのも無理はない。


 しかし上司であるラシアートからの指示は、

「各国の要人たちと積極的に会談し、大陸中央部における情勢を判断すべし」


 である。要は「しっかり働け」と釘を刺されているのだ。だから働く、といえばいかにも役人根性丸出しだが、そういうふうにでも考えて自分に発破をかけなければストラトスのやる気は瞬く間に墜落してしまう。もっとも発破をかけてみても地面すれすれの低空飛行ではあるが。


「………であるからして、我が国としては、貴国と友好な関係を築きたいと熱望しているわけでして………」


 なにしろこんな手合いばかりである。卑屈な笑みに脂汗を浮かべて舌を回転させる男を表面上はにこやかに、しかし内心では冷めた目でストラトスは見ていた。自分よりも年上の男がヘコヘコと下手に出る姿は、哀れとか滑稽なのを通り越して気色悪い。


(まあ、分っていたことだが………)


 そう、この展開は前もって予想されていたことである。二度の十字軍遠征失敗により、教会勢力の国々は力が弱まり権威を失墜させてしまった。それに対してアルジャークはここ最近で急速に力を増して空前の版図を治めるようになり、その勢いは止まるところを知らない。窮地に立った国々が国家の存亡をかけて(というのは言い過ぎかもしれないが)アルジャークに接触し接近し、支援を引き出そうとしているのである。


「貴国のお気持ち、アルジャークとしても嬉しく思います。一度本国に持ち帰り、検討してみたいと思います」


 そういってストラトスはペラペラとよく喋る目の前の男を黙らせた。事実上の会談終了と支援拒否の表明である。


「そ、そうですか………。よろしく、お願いします………」


 スゴスゴと退散する男の背中を冷たく見送り、部屋の扉が閉められるとストラトスはうんざりした様子でため息をついた。御前街についてからこのようなやり取りを、もう何回やったか分からない。


「これでは、私はまるで悪役だな………」


 ストラトスとしても支援の要請を断ることに一抹の罪悪感を覚えないでもない。しかし国境を接しているわけでもない国を一方的に支援してやるつもりもない。貿易などの類であればまだ聞くべきところはあるだろうに、そういった話題を持ち出す者はほとんどいないのだ。


 事前の準備をしていないとか、権限を委任されていないとか、言い分は色々とあるだろう。しかしストラトスとしては、そのような言い訳を聞く耳は持っていない。事前の準備などなくてもある程度の話ならできるだろうし、そのある程度の内容について内々で事後承諾を取れないような人物ならばそもそも話を聞く価値はない。


「ご苦労様でした、大使。午前の来客は今の方で最後です」


 人手が足りないこともあり、秘書代わりに働いてくれていたグレイスがそう告げる。それを聞くとストラトスはもう一度ため息をついて、肩を回して固まった筋肉をほぐした。一日中馬を走らせるのも大変だが、一日中こうして会談を続けるのもなかなか重労働である。


「しかも中身がない」

 ストラトスはそう呟き、グレイスとそろって苦笑した。


 昼食後、つかの間の休息を取っていたストラトスのもとに、思わぬ知らせが舞い込んできた。


「アヌベリアス陛下が?」


 神聖四国が一つサンタ・シチリアナの国王、アヌベリアス・サンタ・シチリアナが会談を申し込んできたのである。彼とストラトスは、実はサンタ・シチリアナの王都で一度会っている。ただその時は双方の都合が合わず、小一時間ばかりお茶を飲みながら談笑をしただけで終わってしまった。


 だからこの機会にもう一度話がしたい、ということらしい。ちなみにこのような場合、どれほど格下の国であろうと相手が王族であるならば、一文官でしかないストラトスのほうから出向くのが礼儀である。現実の力関係は別として。


「伺わせて頂く、とお返事してくれ」


 これ幸いとストラトスはこの話に飛び乗った。そしてこれを理由に午後の面会は全て断るように指示を出す。卑屈な笑みに脂汗を浮かべた男どものせずに済むと思うと、ストラトスの気持ちは少し軽くなるのだった。


**********


 アナトテ山の麓に広がる神殿の御前街は、かなり大規模な都市である。どれほどの規模かといえば、一国の王都にも匹敵する。通りには石畳が敷かれているし、ストラトスたちが泊まっているような高級ホテルを始めとする各種の設備も揃っている。


 さらに今は儀式が近いため、それを一目見ようと信者たちが詰め掛けてきている。大通にはそれらの人々を目当てにした露店も立ち並び、御前街はいつもよりも活気に溢れている、とホテルの支配人も言っていた。


 その御前街のなかに、ひときわ広い敷地を誇る建物が四つある。教会から「(サンタ)」の名を冠することを許された神聖四国が有する、それぞれの迎賓館である。この御前街に迎賓館を持っているということが、教会と神聖四国の結びつきの深さを内外に示すものとなっている。


 ちなみにそれらの屋敷の敷地内は治外法権となっており、そこにおいてはそれぞれの国の国法が適用される。そういう意味においては、「教会の領地に設けられた大使館」と考えておくのが一番近いかもしれない。


 今、ストラトスが馬に揺られながら向かっているのはサンタ・シチリアナの迎賓館である。国王であるアヌベリアス・サンタ・シチリアナから招待されてのことだった。


「前回は十分な時間が取れず失礼をしたため、その埋め合わせをかねて」


 というのが招待の大まかな理由であったが、それを鵜呑みにできるほどストラトスは純朴でも子供でもない。別に悪意ある陰謀を腹に抱えているわけではないだろうが、ただ茶飲み話をするために呼んだわけではあるまい。


(教会の凋落に合わせて、神聖四国も衰退している、か………)


 これまで神聖四国は教会との親密な結びつきを前面に押し出し、その威光を最大限利用することで他の国々とは図太い一線を画してきた。その象徴こそが教会から贈られた「(サンタ)」の名なのだが、贈った側の権威が現在大暴落している。


 当然のこととしてそれにともない、今まで神聖四国が持っていた特異性もその意味がなくなってきている。加えてその四国は二度行われたアルテンシア半島への十字軍遠征にも参加しているから、その失敗によって国力が著しく低下している。


 であれば、考えることは他の国々と同じであろう。


「国体を護持するためにも、東の大国たるアルジャーク帝国からなんらかの支援を引き出したい」


 その思惑はあまりにも見え透いている。


(さて、どうしたものか)


 馬に揺られながらストラトスは考える。これまで彼はアルジャークに対する支援の要請をほとんど断っている。それはその要請があまりにも一方的で、子供が「助けてくれ」と叫んでいるようにしか聞こえなかったからだ。外交は慈善活動ではない。


 しかし相手がサンタ・シチリアナとなれば話は変わってくる。国力が低下し国家として衰退しているとはいえ、その名前の価値はいまだに高い。格式がある、といえば分りやすいだろうか。


 またサンタ・シチリアナは神聖四国の一国として大陸の中央部に強い影響力を持っている。クロノワが大陸中央部にも影響力を拡大したいと思っているのであれば、サンタ・シチリアナは同盟国としてこれ以上ない相手であろう。


 またサンタ・シチリアナを助けたとなれば、大陸中央部におけるアルジャークのイメージアップにも繋がる。中央部ではアルジャークに対して、「辺境の野蛮な国」と偏見を抱いている人々も少なくないのだ。こうした偏見を改善できれば、例えば貿易などするにしても、円滑なお付き合いの下地を作ることができるだろう。


「なんにしても向こうの出方次第、か………」


 求めるのはサンタ・シチリアナで、アルジャークは求められる側だ。手札を最初に切るべきはアヌベリアスのほうであろう。ストラトスにはその手札を吟味してから対応を考えるだけの余裕がある。


「結果がどうなるにせよ、実りある会談になってほしいものだ」


 ここ最近、不毛な会談ばかりしていたストラトスは苦笑しつつもわりと切実にそう願った。


 そうこうしているうちに、ストラトスと彼の付き添いであるグレイスはサンタ・シチリアナの迎賓館に到着した。馬から降りて門番に名前を告げると、すぐに中に通される。案内された応接室でくつろいでいると、すぐにアヌベリアスがやってきた。


 香りのよい紅茶を楽しみながら、まずは他愛もない話で談笑する。一杯目のお茶を飲み終えたあたりで、アヌベリアスがこんなことを言った。


「ところでストラトス大使は、クロノワ殿がモントルム領の総督であられた頃からのお付き合いとか。大使の目から見て、クロノワ殿はどのような方かな?」

「私の目から陛下を見て、でうすか。そうですね………」


 笑顔の下でわりと腹黒いことを考えている人、というのがストラトスの正直なクロノワの人物評価だ。とはいえ、本人はともかくそれをアヌベリアスにそのまま告げるのは流石にまずいだろう。


「陛下は、常に未来を見ておられるような気がします」

「ほう、未来を?」

「はい」


 多くの人間は現在の積み重ねの上に未来があると考える。しかしクロノワは未来のために今があるのだ、と考えているのではないだろうか。


「望む未来のために今なにをすべきか。陛下が決定を下す際には、まずそう考えているように思います」


 とはいえ、別の言い方をすればそれは足元、つまり現実を見ていないとも言える。クロノワ一人ならばそれで転んでしまうことがあるかもしれないが、そこは国家という組織、宰相のラシアートをはじめとして今を見据えるべき人材は揃っている。ストラトスを含めそういう人々がクロノワの脇をしっかりと固めていれば、未来を見据えて今につまずくという事態は避けられる。


「クロノワ殿はまだ妃を迎えられていないが、それも未来を見据えてのことだろうか?」

「恐らくは」


 そういいつつも、ストラトスはクロノワが結婚を渋る理由について少し心当たりがある。多分だが、クロノワは側室や愛妾を置きたくないのだ。


 クロノワの出生は、いまや大陸中で知られている。クロノワの母であるネリア・ミュレットが前の皇帝であるベルトロワのお手つきとなり、そして彼が生まれた。自身の出生について、クロノワは自分のことをことさら不幸だと思ってはいないだろう。しかし自分という存在がいらぬ争いの種になってきたことは自覚している。その最たるものは、兄であるレヴィナスと帝位をかけて争ったあの戦いであろう。


 世継ぎをもうけるためにも、いずれ正妃を迎えなければならない。しかし正妃を迎えれば、次は「側室を」という話になるだろう。王や皇帝の子供が多いことは外交上優位に働く場合もあるが、内政の観点で考えれば問題の火種ともなりうる。


 自身の経験やそういった歴史上の事例を考えると、婚姻の話はもう少し先延ばしにしておきたいというのがクロノワの腹のうちではなかろうか、とストラトスは見ている。無論、その辺りはラシアートも勘付いているのだろうが、彼としては主君の後ろ向きな心情はこの際無視することにしたらしい。


「先延ばしにするデメリットのほうが大きい」

 といつだったか漏らしていた。


 それはともかくとして。アヌベリアスがクロノワの婚姻の話を持ち出してきたことで、ストラトスにはこの先の話の展開が少し見えてきた。


「大使は我が娘、シルヴィアのことをご存知だろうか」

「はい。姫のお噂はかねがね。なんでも弓術に秀で馬を巧みに操られるとか」


 実は、ストラトスはつい最近シルヴィアの名前を耳にしている。クロノワの正妃候補として名前が上がっていたのだ。


 シルヴィア・サンタ・シチリアナ。歳は今年で十七だったはずだ。王族や貴族の女性は十四、五で嫁ぐことも珍しくなく、十七であれば嫁いだ先で子供の一人や二人産んでいてもおかしくはない。


「もともと、国内の有力貴族の嫡子と婚約させていたのだが、その者が第一次十字軍遠征のときに戦死してな………」


 アヌベリアスの声が少し暗くなる。ストラトスは沈痛に「お悔やみ申し上げます」と言ったが、半分以上は儀礼的なものだ。その婚約者殿に会ったこともないのであれば、悲しみの感情が湧いてくるはずもない。


「そのせいか、第二次遠征の時には自分が指揮を執るといって聞かなくてな………。思いとどまらせるのに苦労した」

「それは………。噂に違わぬ勇敢な姫君ですね」


 そういってストラトスとアヌベリアスの二人は苦笑した。とはいえ、十字軍遠征に行かなかったからこそ苦笑で済んでいるのである。


 たしかにシルヴィアは一般的な「お姫さま」の枠組みには納まらない。彼女が陣頭に立てば十字軍の士気は上がっただろう。


 しかし、その程度でかの英雄シーヴァ・オズワルド率いるアルテンシア軍を破ることができるのかと言われれば、ストラトスははっきり無理だと断ずる。彼は武人ではないが、それでも疑問の余地はない。


 シーヴァとシルヴィアでは、格が違う。ストラトスはそのどちらとも直接あったことはないが、だからこそ公平に判断を下すことができる。温室育ちのシルヴィアと叩き上げで国王にまで成り上がったシーヴァでは勝負になるはずもない。


 仮にシルヴィアが第二次遠征に参加していたならば、彼女の婚約者と同様に戦死していた可能性が高い。それを分っていたからこそ、アヌベリアスは頑として娘を戦場に赴かせなかったのだ。


 閑話休題。アヌベリアスはそういう話をしたいわけではなかった。


「そのシルヴィアだが、私としてはクロノワ殿に妃としてさしあげたいと思っている」


**********


 ストラトスとその付き添いがサンタ・シチリアナの迎賓館を辞して帰路についたのは、すでに日は傾き空が赤く染まった時分のことだった。


「どうするおつもりですか、大使?」


 馬に揺られながら泊まっているホテルに帰る道すがら、付き添いのグレイスが躊躇いがちに後ろから聞いてくる。


「どうもこうも、早馬を出して本国にこの件を伝える以外、我々にできることはないな」


 娘であるシルヴィア姫をクロノワの妃に、というアヌベリアスの申し出はストラトスの裁量でどうこうできる問題ではない。本国に伝え、クロノワとラシアートの判断を仰ぐことになるだろう。近いうちにサンタ・シチリアナのほうからも、アルジャークに対して正式な使者を立てるはずだ。


 この婚姻に関するサンタ・シチリアナの思惑は見え透いている。つまりアルジャークと姻戚関係を結ぶことでその支援を引き出し、国体を護持したいのだ。


 ストラトスとしては、この申し出に嫌悪を感じることはない。この種の外交は昔からよくあることだ。一方的に「支援してくれ」と我儘を言われるよりも、よほど好感を持てるというものだ。


(まあ、私個人の好き嫌いはいいとして………)


 アルジャークにとって、この婚姻にはどのようなメリットがあるか。


 まず、サンタ・シチリアナと姻戚関係になれば、アルジャークが大陸の中央部に進出する足がかりになるだろう。それは別に領地の拡大だけを意味しているわけではなく、貿易範囲の拡大という視点でも大きな意味がある。


 それにアルジャークは支援をする側だ。サンタ・シチリアナ、ひいては神聖四国や大陸中央部において、その発言力は無視できないものとなるだろう。


 またラキサニアもアルジャークよりになびくことだろう。


 サンタ・シチリアナとアルジャークの間に位置するその国は、これまで神聖四国の子分のような位置づけであった。しかしその両国が自国の頭を飛び越えて手を結んだとなれば、ラキサニアとしては左右から無言の圧力をかけられるようなもので、国を維持するためにも向こうから尻尾を振ってくるだろう。そうなればアルジャークはタダで事実上の属国を手に入れることができる。


 逆にデメリットはなんだろうか。


 サンタ・シチリアナと姻戚関係を結べば、アルジャークは教会勢力とこれまで以上に強いつながりを持つことになる。教会の衰退に巻き込まれる可能性は無視できるほどに低くはないだろう。


 またそこまでいかずとも、サンタ・シチリアナを通して間接的に教会を支援しなければならなくなることも考えられる。多額の寄付を要求されることは目に見えており、その支出をクロノワやラシアートが嫌がる可能性は十分にある。


 なにしろ今の教会は穴の開いた器だ。どれだけ注ごうとも水がたまることはない。


(ま、私が今ここであれこれ考えても仕方がないんですけどねぇ………)


 ストラトスがこの場ですぐに思いつくようなことだ。ラシアートが見落とすとは思えない。本国に向けて早馬を出してしまえば、この件に関してストラトスのやることはとりあえず終わりだ。


 御霊送りの儀式が終われば、当初の予定通りポルトールとオルレアンを視察してから帝都に戻ることになる。というよりクロノワの腹のうちとしては、そちらのほうがメインではないだろうか。


(捻くれていますからね、我らが陛下は………)


 ストラトスはそっと苦笑した。クロノワが、考えすぎて自分の思考に疲れてしまう性格であることをストラトスは知っている。最悪の事態を想定することは大切だが、彼の主君の場合、後ろ向きに考えることが多いようにストラトスには思えた。


 そういえばシルヴィア姫は真っ直ぐな気性と聞く。二人が結婚すれば、姫が陛下の根暗な根性を矯正してくれるのでは、などとわりと失礼なことをストラトスは考えているのであった。




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