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乱世を往く!  作者: 新月 乙夜
第八話 王者の器
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第八話 王者の器⑫

 イストを捕獲した(被捕縛者の主観)オーヴァ一行がアルテンシア半島の入り口であるゼーデンブルグ要塞を視界に捉えたのは、大陸暦1565年2月18日のことであった。本来であればもう少し早くここまで来られたのだが、半島の各地で十字軍が敗退しているせいか各地が少なからず混乱しており、また意識的に情報を集めながら来たため時間がかかってしまったのだ。


 アルテンシア半島から十字軍を駆逐せんと奮戦しているのは、間違いなくシーヴァ・オズワルドである。しかしその彼もまだ最後の仕上げであるゼーデンブルグ要塞の奪還はなしていないようで、遠目で確認したその要塞には十字をあしらった教会の旗がたなびいていた。


「要塞はいまだ十字軍が占拠、か………」


 一行はゼーデンブルグ要塞を一望できる小高い丘の上に馬車を止めテントを張った。少人数のこの一行だけならば、夜闇にでもまぎれて要塞の脇をすり抜けて半島内に入ることも出来るのだろうが、騎士たちが次のように主張したのだ。


「陛下は必ずや近いうちにゼーデンブルグ要塞奪還のために動かれる」


 だから下手に動かず要塞の近くで待っていれば、シーヴァのほうからこちらに向かってくる、というのだ。


 余談になるが、シーヴァはこの時点ではまだ「アルテンシア統一王国」の設立を宣言しておらず、よって彼はまだ国王ではなかった。しかし騎士たちが「陛下」の尊称を使ったということは、すでに王者としての実態を備えていたということであろう。


 実際、シーヴァに味方した五人の領主たちは彼の臣下であり、領主を臣下とするシーヴァは正しく王であると言える。


 閑話休題。話を元に戻そう。


 四人の騎士たちは要塞の近くでシーヴァを待つことを主張したが、その意見にイストは懐疑的であった。


 ゼーデンブルグ要塞にいる十字軍は目算で十万程度であろうか。元々の総勢が三二万であったことを考えると、実に三分の一以下である。シーヴァに相当手ひどくやられたことが、容易に想像できた。


 その想像を肯定するかのように、要塞内は遠目でもはっきり分るほどに活気がなく、全体的に焦燥しきっている。ひるがえる旗も、汚れや破れが目立ちどこか弱々しくて頼りない。


「放っておいても撤退するんじゃないのか?」


 十字軍が撤退し要塞が空になれば、奪還のためにわざわざシーヴァが動くことはあるまい。

 しかし騎士たちはイストの意見を否定した。オーヴァまでもが苦笑を浮かべている。


「陛下ならば必ず動かれる」

「ま、ヤツなら自分の手で決着をつけるじゃろうな」


 オーヴァにまでそういわれては、イストとしてはもう黙るしかない。それにイストはシーヴァの人となりを知らない。それを知っている五人が口を揃えて「来る」というのであれば、来るのであろう。来る前に十字軍が撤退したのなら、その時に動けばいいだけの話だし。


 そして2月21日、ゼーデンブルグ要塞に一団の軍勢が迫った。言うまでもなく、シーヴァ・オズワルド率いるアルテンシア軍である。


「ホントに来たよ………。働き者だねぇ」


 呆れたように笑いながら、イストは「光彩の杖」に魔力を込める。するとアルテンシア軍の様子が拡大された。展開した魔法陣によって空気の密度を操作し、擬似的なレンズを作り出したのだ。


 アルテンシア軍は要塞から弓を射ても矢が届かないだけの距離を保ち一旦停止した。シーヴァが率いているこの軍勢は、要塞に立てこもっている十字軍とはまったく正反対の様相を示している。つまり、士気が高く自信に溢れていることが遠目にも良く分り、翻る旗は力強くて頼もしい。


「む、動くぞ」


 オーヴァの言葉が早いか、アルテンシア軍から騎士が一騎駆け出していく。少し遅れて軍全体も動き出す。


「師匠」

「うむ」


 オーヴァもまた「光彩の槌」に魔力を込め、イストと同じ魔法陣を展開する。そうやって作った空気のレンズが追うのは、一騎駆けをする騎士である。


 その騎士は漆黒の鎧に身を包み、しかし兜は被っていなかった。無造作に伸ばした黒い髪の毛が、風に煽られて暴れている。眼光鋭く前を見据え、口元には獰猛な笑みを浮かべていた。


 そして何よりも目を引くのは、その騎士が水平に構えた漆黒の大剣である。イストたちが見守る中、その大剣は主である騎士の魔力を糧として黒き風を発生させた。


「あれが『災いの一枝(レヴァンテイン)』か………」


 イストが実物を見るのは、これがはじめてである。しかしその術式や使用された素材については知っており、あの騎士のように使いこなしてみせるには膨大な魔力が必要であることも容易に想像できた。


 つまり、「災いの一枝(レヴァンテイン)」を使いこなすあの騎士こそ、シーヴァ・オズワルドその人なのだろう。


 シーヴァは発生させた黒き風を、まるで障壁のように自分と馬の周りに展開する。要塞の城壁の上にいる十字軍の弓兵たちは彼に矢を集中させるが、黒き障壁は雨粒を弾き飛ばすかの如くにそれらの矢を寄せ付けない。


 黒き風を纏ったシーヴァは、降り注ぐ矢の雨を意にかえすこともなく戦場を駆け抜ける。


「まるで黒き稲妻のようだな………」


 感嘆したようにジルドが呟く。そしてその“稲妻”という評価に恥じることなく、シーヴァは城門めがけて疾駆し、そして速度を緩めることなくそのまま突撃し鋼の城門を突き破って要塞内に踊りこんだ。


「おいおい………」


 呆れとも驚愕ともとれない呟きをイストが漏らす。しかしその横顔を見たニーナは顔を強張らせた。


 イストの両目は大きく見開かれており、その口元は喜悦に歪んでいる。喜んでいる表情のはずなのに、見る者の背中にうすら寒いものを感じさせずにはおかない。


「取るなよ。アレは儂のモノじゃ」

「分ってるよ」


 オーヴァに釘を刺され、イストは口を尖らせながらその歪んだ笑みを引っ込めた。それから横目でジルドのほうを見ると、固い表情と剣のように鋭い眼差しで戦場を、いやシーヴァを睨みつけている。


(おっさんも思うところ有り、か………)


 楽しくなりそうじゃないか、とイストは内心でほくそ笑んだ。そうこうしているうちにアルテンシア軍の兵士たちは次々とゼーデンブルグ要塞の中に侵入していく。ある者はシーヴァがこじ開けた城門をくぐり、ある者は城壁を乗り越えて要塞の内側に乗り込んでいく。


 それに対し十字軍はもはや逃げの一手だ。彼らの中にあったはずの戦いを求める意思は霧散し、恐怖に塗りつぶされた思考はただ要塞の外に、つまりはアルテンシア半島の外に逃れることを希求する。まるで猟犬に追いたてられる兎のように、十字軍は半島からたたき出されたのであった。


「さて、では行くか」


 一方的な戦いが一段落したのを見計らって、オーヴァが腰を上げた。戦場を見下ろしていた小高い丘から降りて、一行はゼーデンブルグ要塞へと向かう。


 要塞には表門ではなく裏門、つまりシーヴァたちが攻めた側から入った。要塞の外の大地には大量の矢が突き刺さっており、また城壁の上では戦死した十字軍兵士の死体がいまだとめどなく血を流している。


 そんな、戦いのあとの生々しい様相を見たニーナは顔を青くし目には涙を溜め、何かを堪えるように口元を手で覆った。殺されたばかりの死体が転がる戦場跡に来たことなど、彼女はこれが初めてであろう。


「ニーナ、馬車の中に入っていてはどうだ?」


 ニーナの様子に気がついたジルドはそう勧める。彼女は迷うような素振りを見せたが、師匠であるイストから「いいから入ってろ」と言われ、青白い顔で一つ頷いてから馬車の中に身を隠した。


「やはりニーナには辛いようだな、ここは」

「本来、魔道具職人は戦場とは縁がないからな」


 要塞の外で穴を掘り遺体の埋葬を行っている兵士たちを横目で窺いながら、イストとジルドは言葉を交わす。魔道具職人のクセに真新しい戦場跡で平然としていられるイストやオーヴァの方こそ異常なのである。


 シーヴァが壊した城門の前には、二人の兵士が見張りとして立っていた。最初は明らかに警戒の目を向けてきた彼らも、四人の騎士の一人が懐から取り出した証書を見せると態度を一転させ一行を要塞の中に通した。


「報告して指示を仰いでくるので、しばらくお待ちを」


 邪魔にならないところに馬車と馬を停めると、騎士のうちの二人がそう言って建物の中に入っていった。


 手持ち無沙汰になったイストは、馬車の車輪に背中を預けて「無煙」を取り出し吹かす。白い煙(水蒸気だ)を吐き出しながら周りを見渡せば、アルテンシア軍の兵士たちが忙しく動き回っている。


 イストの見るところ、そうやって働いている兵士たちの表情は皆明るい。勝ち戦の後なのだから表情が明るいのは当たり前なのだろうが、その奥には充実した誇りが見え隠れしている。


(「自分たちは今国を造っている」。そういう自負があるんだろうな)


 しかし「歴史を造っている」という自負を持っているのはこの要塞内においてただ一人、シーヴァ・オズワルドだけであろう。その意識の差が、そのまま器の差であるともいえる。彼は正しく「王の器」を持っているのだ。


「『儂のモノだから取るな』か………」


 変人に気に入られて大変だな、とイストは自分のことを棚上げしてシーヴァに同情した。表面上、だが。


「師匠………」


 イストが「無煙」を吹かしていると、さっき引っ込んだばかりのニーナが馬車から出てきた。顔はまだ青白いが、幾分落ち着いたようである。


「もういいのか?」

「はい………。馬車の中で膝を抱えていても、仕方がないですから」


 イストが寄りかかっている馬車の前を、死体を載せた荷台が通り過ぎていく。シーヴァは敵味方関係なく全ての戦死者を埋葬するようにと命じたらしいが、敵兵の死体の扱いはやはりぞんざいになる。イストが横目で弟子を窺うと、眉間にシワを寄せて目をそらしていた。


 そこへ、報告へ向かった騎士たちが戻ってきた。


「陛下は、今はまだお忙しい。すまないが謁見は明日の昼以降になりそうだ」

「ん、了解」


 イストは特に文句は言わなかった。要塞を奪還した後に地味で煩雑だが重要な事後処理が待ち受けていることは、軍事に関してはまったくのド素人であるイストでも容易に想像がつく。


「ただ、相部屋しか用意できなかったんだが………」


 言いにくそうにして騎士がニーナとジルドのほうに視線を向ける。ゼーデンブルグ要塞は常時十万の軍勢を駐在させていた大要塞である。当然、それだけの兵が生活するための部屋も揃っていたはずだ。加えて今回シーヴァが率いている軍勢の数は十万以下で、にもかかわらず相部屋しか確保できなかったということは、勝ち戦の興奮の裏側にある少しばかりの混乱を思わせた。


「ワシはそれでもかまわぬ」

「わたしも大丈夫です」


 二人の言葉に騎士はほっとした様子を見せる。もう少し落ち着いたら個室を用意できると思います、と告げてから彼はオーヴァのほうに視線を向けた。


「ベルセリウス老には個室を用意してありますので」

「ん?儂も相部屋でよいぞ」

「来んな。こっちからお断りだ」


 まるでハエでも追い払うかのようにしてイストが「しっし」と手を振るう。ずいぶんとひどい言い様だが、オーヴァのほうもこの程度の暴言で傷つくようなまともな精神はしていない。


「そうか。では心置きなく一人部屋を満喫させてもらうとしよう」


 そんな師弟の仲のいい会話に苦笑しながら、一行は建物の中に入って行った。


**********


 次の日、昼食を食べてから部屋に戻り、特にすることもないので「無煙」を吹かしながらゴロゴロしていたイストの所に、一緒に旅をした騎士の一人がやってきた。旅の間は身に着けていなかった鎧を纏っており、その姿は立派に騎士である。


「本当に騎士だったんだな………」


 そんなイストのわりと失礼な呟きも苦笑するだけで済ませてしまう。だてにオーヴァの随行員として選ばれたわけではないらしい。


「謁見の手筈が整ったから、呼びに来た」

「ん、了解。師匠は?」

「すでに陛下のところに」


 服装について尋ねると「そのままでいい」と言われたので特に着替えることはせず、三人は連れ立って騎士の後についていく。


「師匠、『無煙』を吸っちゃダメですからね」

「え~」


 弟子の忠告に嫌そうな声を漏らす師匠。それでも弟子は健気に「ぜっっったいにダメですからね!」といい続け、目的の部屋につくまでに師匠から言質を取るという偉業を成し遂げた。


「む、来たおったか」


 案内されたのは、少し大き目の会議室のような部屋であった。家具は大きなテーブルと椅子が数脚あるだけで、まさに必要最低限のものしかおいていない。南向きに窓が付いているおかげか、室内は明るい。


「師匠だけか?」


 部屋の中で椅子に腰掛けていたのはイストの師匠であるオーヴァだけである。シーヴァの方はまだ来ていないようだ。


「まあ、そのうち来るじゃろう」


 そう言われてイストは肩をすくめた。相手は忙しい身の上。暇人が待つのは道理であろう。


 オーヴァと騎士を含めて室内には五人いたが、特に誰も喋らなかった。オーヴァは椅子に座ったままなにやら本を読んでいる。ジルドは椅子に座らずに立ったまま壁に寄りかかり、腕を組んで目を閉じていた。騎士は入り口の近くに手を後ろで組んで立っている。イストもまた椅子には座らず、窓の近くの壁に寄りかかり外を眺めていた。


「あの、師匠………」


 少し心配そうな顔をしたニーナが、小声で話しかけてくる。


「ん?どうした」

「シーヴァ……陛下が聞きたいことって、ハーシェルド地下遺跡のことなんですよね?」


 今までは呼び捨てにしてきたのだが、さすがにここでそれはまずいと思ったのかニーナは“陛下”の敬称をつける。


「そういう話だったな」


 オーヴァや騎士たちから受けた説明では、ハーシェルド地下遺跡の発掘中に見つけたものについて話を聞きたい、ということであった。


「今更ですけど、そんな重要なことありましたっけ?」


 その遺跡の壁画に描かれていたのは、大部分が「御霊送りの神話」に関するものであった。現在伝わっている神話と比べると所々異なっている部分があったが、それにしても結局は解釈の問題でしかないように思える。


 無論、ハーシェルド地下遺跡は学術的に見れば貴重な遺跡であった。それは一緒に発掘調査を行った、シゼラ・ギダルティをはじめとする学者たちの様子を見ていたから分る。しかしだからといってそこに、シーヴァ・オズワルドが求めるような情報があったようには思えないのだ。


「ま、それこそ“解釈の問題”ってやつだな」


 重要なのはイストやニーナがその情報に対してどのような解釈を行うかではない。シーヴァがそれを聞いてどのように解釈し、そして判断を下すか、だ。さらに言うならば、シーヴァにとってどのような解釈が可能か、ということが重要なのだ。彼は政治家であって、間違っても学術的な事実を探求しているわけではないのだ。


「………タチの悪い言いがかりみたいですね………」

 ニーナが表情を引きつらせる。


「神話を政治や戦争に利用しようと思えば大体そうなるさ」


 むしろ捏造や改ざんに手を出していない以上、シーヴァはまだましな部類といえるだろう。あくまでも“現在は”だが。


「手厳しい意見だな」


 聞きなれない声が部屋の中に響き、新たな人物が部屋の中に入ってくる。入り口の近くに立っていた騎士が、胸に拳を当てて敬礼する。


 室内に入ってきた人影は四つ。そのうちの二人は明らかに雰囲気が違い、ゼゼトの民であろうと推測された。


 その四人の中でイストが知っている顔は唯一つ。長身痩躯で、黒い髪の毛を無造作に伸ばした男。その眼光は昨日見たのよりは幾分穏やかだがしかし十分に鋭く、獰猛な笑みを浮かべていた口元に今は呆れたような苦笑を浮かべていた。


 漆黒の魔剣「災いの一枝(レヴァンテイン)」を手に一騎駆けを敢行した、シーヴァ・オズワルドその人である。


「我がシーヴァ・オズワルドだ。お前がイスト・ヴァーレ、ということでいいのだな?」


 シーヴァの鋭い視線がイストを捕らえる。余談になるが、十字軍を駆逐しアルテンシア半島全体を勢力圏にしたこの頃から、彼は「我」という一人称を使い始めた。「王者に相応しい威厳を、演出でもいいから持て」と誰かに言われたらしい。


「そうなるな。ま、よろしく」


 ニーナであればすくみ上がってしまいそうな眼光に睨まれても、イストはその飄々とした空気を変えない。あらかじめ釘を刺していなかったら、「無煙」でも吹かしていそうな雰囲気である。


 そんなイストの無礼な態度に、シーヴァの横に控えていた女性仕官が眉をひそめるが、結局何も言わなかった。きっとオーヴァの弟子ということで諦めたのだろう。


 一通りの自己紹介が終わると、それぞれが席に着く。真っ先に口火を切ったのはシーヴァであった。


「迂遠な物言いは好きではないのでな、単刀直入にこちらの用件を言おう。すでにベルセリウス老から聞いていると思うが、ハーシェルド地下遺跡でお前が見たものについて話を聞きたい」

「タダでか?」

「貴様!」


 さすがにこの物言いには我慢できなかったようで、ヴェートと紹介された女性が腰を浮かせる。しかしすぐにシーヴァがそれを制した。


「何が望みだ?」


 しぶしぶ席に戻るヴェートを視界の端に捕らえながら、イストもまたシーヴァを真正面から見返す。


「そうだな、このおっさんと戦ってみてもらおうか」


 そう言ってイストが指を向けたのは、ジルド・レイドである。


「イスト………」


 しかし、水を向けられたジルドは困惑した様子を見せた。事前にそんな話は一切しなかったのだから当然だろう。


「仕合ってみたいんだろ?かのシーヴァ・オズワルドと」


 昨日、シーヴァの奮戦を見物する彼の横顔から、イストはそのことを確信していた。そしてジルドとシーヴァがぶつかれば、面白いことになるという直感がある。


「ふむ………」


 ジルドが腕を組む。「やりたい」とは言わなかったが、その姿からイストは肯定の意思を感じた。そしてそれはシーヴァも同じだったらしい。


「それで?勝てばよいのか?」

「いや?勝敗には拘らないよ。面白いものを見せてくれればそれでいい」


 ジルドはともかく、シーヴァ側の三人、ヴェートとガビアルとメーヴェも特に何も言わない。それだけシーヴァの実力を信じているのだろう。


「魔道具の使用は?」

「もちろんアリで」

「………死ぬかも知れぬぞ」


 シーヴァの使う魔道具とは、すなわち「災いの一枝(レヴァンテイン)」のことだ。昨日の戦いを見る限り、彼の言葉は決して誇張や自己陶酔の類ではない。


「かまわぬ」


 答えたのはイストではなくジルドだった。愛刀「光崩しの魔剣」を握る彼の手には力が込められている。


「たとえどのような結果に終わろうとも双方遺恨なし。それでよい」


 堂々とジルドは言ってのけた。その言葉に絶句したのはシーヴァの後ろにいる三人である。


「ともすれば自分のほうこそシーヴァを斬ることになるかも知れない」


 ジルドは言外にそういったのである。

 その言葉を聞いてシーヴァが笑う。それは昨日見せた、あの獰猛な笑みだった。


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