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吐露
廃工場で軟禁された十日間のせいか、滞在は実際よりも長く感じられた。それは吾妻にとっても然りだった。
二条は吾妻の自宅に上がり、勝手に買い揃えた品の入った紙袋をソファの後ろへ置く。
腰を下ろし、仕事用のスマートフォンを何気なく手に取った。縁には乾いた血の痕が残っている。拭いた筈なのに、赤黒い影が消えない。
新たな商談相手から返信が来ていた。了承の返事を打ち終えたところで、吾妻がテーブルにグラスを置き、隣に腰を下ろす。
二人の視線は交わらない。グラスに口をつけながら、互いの指先だけが触れる。絡むというより、確かめるように。
先に沈黙を破ったのは二条だった。
「──本当はさ、喉にナイフ当てられた時だけ、ちょっと怖かった」
絡んだ指に、僅かに力がこもる。
「目の前のもん処理しなきゃなのに、龍臣君の顔浮かんじゃってさ、最悪」
吾妻は空になったグラスの縁をなぞる。視線は上げないまま、淡々と返す。
「最悪で結構。それで生きれるなら、浮かべてりゃいい」
短い言葉だった。けれど、逃がさない声音だった。




