清算
翌日。アタッシュケースの中身を使い切る勢いで、二条は吾妻を食事と買い物に連れ回した。
食事は高級店へ。買い物先でも、二条はアタッシュケースから札束を取り出し、店員へ無言で差し出す。
スーツの色味を吾妻の肩に当てて確かめ、腕時計やサングラスは普段の雰囲気に近いものを選ぶ。香水は白檀系。わずかに渋みのある、男らしい香り。
京都の地酒も次々に購入し、両手にはいくつもの紙袋が下がった。
「二条、もういいって」
吾妻が制止するが、二条の手は止まらない。
まるで十日分の命の重みを、形にして返すかのようだった。
「アンタに借り作りたくねぇんだよ」
「──…」二条は笑う。しかし目は笑っていない。「龍臣君が来なかったら死んでたかもね、って言えば満足?」
その瞬間、吾妻は初めて感情で動いた。
殴らない。怒鳴らない。代わりに、二条を乱暴に抱き寄せた。
「ふざけんな。俺はアンタが居ないと困るんだよ」
抱き寄せられた二条が固まる。次いで、低く笑った。
「なにそれ。独占欲?」
街のざわめきとガラスの反射が溶け合い、二人の間に沈黙が落ちる。
二条の呼吸がわずかに乱れ、胸元が強張る。そして、小さく吐き出すように──「……来てほしかったよ」
抱き寄せる腕の力が、遅れて強まる。
二条はその圧に肩を揺らし、視線を逸らした。笑みは消え、顎が静かに落ちる。
沈黙が二人を包む。その短い間だけ、空気は確かに濃くなっていた。




