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嘘と煙の仮面舞踏会  作者: 男鹿七海
33/45

清算

 翌日。アタッシュケースの中身を使い切る勢いで、二条は吾妻を食事と買い物に連れ回した。

 食事は高級店へ。買い物先でも、二条はアタッシュケースから札束を取り出し、店員へ無言で差し出す。

 スーツの色味を吾妻の肩に当てて確かめ、腕時計やサングラスは普段の雰囲気に近いものを選ぶ。香水は白檀系。わずかに渋みのある、男らしい香り。

 京都の地酒も次々に購入し、両手にはいくつもの紙袋が下がった。

「二条、もういいって」

 吾妻が制止するが、二条の手は止まらない。

 まるで十日分の命の重みを、形にして返すかのようだった。

「アンタに借り作りたくねぇんだよ」

「──…」二条は笑う。しかし目は笑っていない。「龍臣君が来なかったら死んでたかもね、って言えば満足?」

 その瞬間、吾妻は初めて感情で動いた。

 殴らない。怒鳴らない。代わりに、二条を乱暴に抱き寄せた。

「ふざけんな。俺はアンタが居ないと困るんだよ」

 抱き寄せられた二条が固まる。次いで、低く笑った。

「なにそれ。独占欲?」

 街のざわめきとガラスの反射が溶け合い、二人の間に沈黙が落ちる。

 二条の呼吸がわずかに乱れ、胸元が強張る。そして、小さく吐き出すように──「……来てほしかったよ」

 抱き寄せる腕の力が、遅れて強まる。

 二条はその圧に肩を揺らし、視線を逸らした。笑みは消え、顎が静かに落ちる。

 沈黙が二人を包む。その短い間だけ、空気は確かに濃くなっていた。


 

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