激昂
二条の中では、柏木組長から呼び出しがあったこと自体が想定外だった。
それよりも、歩くたびに鳴る金具の小さな音が気に障る。その乾いた響きが、やけに耳についた。
「わ、何、龍臣君。新撰組好きだから屯所行きたいんだけど」
「今日はもうホテル戻る」
有無を言わせず手を引き、タクシーでホテルへ戻った。
晩御飯と入浴を済ませると、吾妻は二条の肩から胸にかけて血に染まったガーゼを剥がしていく。傷はまだ赤い。乾いた血が皮膚に張りつき、動くたびに鈍く突っ張った。
「いたたたた。ちょっ、龍臣君、痛い」
眉間に皺が寄り、目の縁がうっすら滲む。視線を鏡へ流すと、そこに映る自分は妙に他人めいて見えた。
吾妻は何も言わず包帯を巻く。その手つきがやけに丁寧で、二条は視線を外した。
「……痛いか」
「平気」
包帯を巻き終えると、二条はいつも通りの軽口を叩く。
「そんな怖い顔しないでよ。俺、裏社会に片足突っ込んでるし。こんな怪我、龍臣君と出会う前からしてるし慣れてるよ」
その瞬間、吾妻が手首を強く掴んだ。
「お前は……!」
言葉が続かない。
「大丈夫だよ。俺は死なないから」
笑みの奥で、冷たい光がかすかに揺れた。本当に死なない、と言い切る声音には、どこか張りつめた狂気が滲んでいる。
二条の瞳が揺れる。息が喉で止まり、指先にだけ余計な力が残る──その刹那、冷たさの奥にある迷いが覗いた。
それでも吾妻は首元を掴み、怒りを含んだ荒いキスを落とす。
「たつおみ、くん…」
二条は動揺を隠しきれていなかった。
「次は──」
「次は、何」
「もし、あの場に俺が来なかったら、アンタはどうしてたんだよ」
二条はこれまで、自分が死ぬかどうかだけを考えてきた。だが今、“間に合わなかった吾妻”を想像してしまう。
「寝てたかもね(死なない、じゃなくて死ねない、か)」
吾妻は痣の浮いた頬に、軽く拳を当てた。
「龍臣君、痛い」
冗談めかした声。しかし今はその軽さが癇に障る。
「龍臣君って、昔からそうやって殴って黙らせてきた?それとも怒るとキスするタイプ?」
「どうでもいいだろ」




