表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘と煙の仮面舞踏会  作者: 男鹿七海
32/43

激昂

 二条の中では、柏木組長から呼び出しがあったこと自体が想定外だった。

 それよりも、歩くたびに鳴る金具の小さな音が気に障る。その乾いた響きが、やけに耳についた。

「わ、何、龍臣君。新撰組好きだから屯所行きたいんだけど」

「今日はもうホテル戻る」

 有無を言わせず手を引き、タクシーでホテルへ戻った。

 晩御飯と入浴を済ませると、吾妻は二条の肩から胸にかけて血に染まったガーゼを剥がしていく。傷はまだ赤い。乾いた血が皮膚に張りつき、動くたびに鈍く突っ張った。

「いたたたた。ちょっ、龍臣君、痛い」

 眉間に皺が寄り、目の縁がうっすら滲む。視線を鏡へ流すと、そこに映る自分は妙に他人めいて見えた。

 吾妻は何も言わず包帯を巻く。その手つきがやけに丁寧で、二条は視線を外した。

「……痛いか」

「平気」

 包帯を巻き終えると、二条はいつも通りの軽口を叩く。

「そんな怖い顔しないでよ。俺、裏社会に片足突っ込んでるし。こんな怪我、龍臣君と出会う前からしてるし慣れてるよ」

 その瞬間、吾妻が手首を強く掴んだ。

「お前は……!」

 言葉が続かない。

「大丈夫だよ。俺は死なないから」

 笑みの奥で、冷たい光がかすかに揺れた。本当に死なない、と言い切る声音には、どこか張りつめた狂気が滲んでいる。

 二条の瞳が揺れる。息が喉で止まり、指先にだけ余計な力が残る──その刹那、冷たさの奥にある迷いが覗いた。

 それでも吾妻は首元を掴み、怒りを含んだ荒いキスを落とす。

「たつおみ、くん…」

 二条は動揺を隠しきれていなかった。

「次は──」

「次は、何」

「もし、あの場に俺が来なかったら、アンタはどうしてたんだよ」

 二条はこれまで、自分が死ぬかどうかだけを考えてきた。だが今、“間に合わなかった吾妻”を想像してしまう。

「寝てたかもね(死なない、じゃなくて死ねない、か)」

 吾妻は痣の浮いた頬に、軽く拳を当てた。

「龍臣君、痛い」

 冗談めかした声。しかし今はその軽さが癇に障る。

「龍臣君って、昔からそうやって殴って黙らせてきた?それとも怒るとキスするタイプ?」

「どうでもいいだろ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ