呼称
吾妻と唯会話をしたかっただけなら、そのままベランダ越しでも良かったのだが、同じ空気を吸っていたかった。
吾妻が風呂から上がると、二条はソファでクッションを抱き枕にして寝ていた。
床には空になった酒瓶が転がっており、テーブルには二条のスマートフォンが二台置かれていた。
先程から何回か、仕事用のスマートフォンに、電話がかかってきていた。着信音が鳴るたび、吾妻は視線を向けて無視した。
「……男前が台無しだな」何気無く呟きながら、顔の傷をなぞっていく。「宗親…」優しく髪の毛を触りながら名前を口にした。
吾妻は二条に毛布をかけ、自室に入っていった。
(え…今、名前で…聞き間違い……?)
二条は吾妻より少し遅れて目を覚ました。
「やっと起きたか」煙草を吸いながら、二条に声をかける。
二条の寝起きはあまりにも最悪だった。
「うるせぇな」起きてから息を吸うように煙草の箱に手を伸ばし、台所へ足を踏み入れる。
煙草を吸う二条の横で、吾妻はコーヒーを淹れる。何も訊かず二条の分のコーヒーをテーブルに置き、「アンタ、そういう顔もすんだな」少し笑いながら云った。
「あ゛…?」一つ欠伸をする。「朝から最悪とか云いてぇの?」
「いや?こんな飽きない野郎、アンタ位だよ。何より、横に置いておいて悪くないからな」
吾妻の言葉で、眠たそうだった目が覚めてきた。「……………」喉が鳴り視線が逸れる。
「いや、何か言えよ」
「龍臣君が、又俺を殺そうとしてる」指に挟んだ煙草を口へ運び、半ば手のひらで覆う。だが、その奥で緩む唇までは隠しきれない。「その、今…あんまり見ないで欲しいなぁ、なんて」
寝起きの口の悪さは何処へやら。いつもの軽口だが、羞恥が含まれていた。
「………。」煙を吐きながら、確かめるみたいに二条の手首を掴む。
「な、何」
「可愛い奴」




