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開示
夜風が冷たく、居酒屋のざわめきは遠くに消えた。二条は煙草の火を落とさないまま、静かに歩く。
普段の胡散臭い笑顔は消え、素の顔で、低く、落ち着いた声だった。
「……俺、詐欺師なんだよね」言葉は軽くない。悲壮でもない。「辞める気もない。金持ち騙してんの、割と性に合ってる」
ここで二条の目が、一瞬だけ鋭くなる。吾妻は顔を上げて見つめる。
「でもさ」小さく息を吐き、更に静かに続ける。「嘘まみれで汚ぇまま、君の横に居たい」
──その“でも”の重み。
吾妻は煙草を咥えたまま、少し間を置く。そして、静かに答えた。
「知ってる」軽く笑いを含むでもなく、冷たくもなく、唯、事実として受け止める口調。「アンタ、最初から胡散臭かったからな」
短い沈黙が流れる。
「俺は恋愛が嫌いだ。それは変わらねぇ」少し間を置き、煙草の煙を吐きながら、視線を横に向ける。「それでも、アンタが隣に居んのは、嫌いじゃない」
二条の肩の力が、少しだけ抜ける。
笑わず、だが安心したように、静かに息を吐いた。
夜はまだ長いが、互いの隣に居る事は、もう確かな事実になっていた。
三度目の「好き」は成立せずとも、この瞬間、二人の間の距離は完全に縮まった。




