再来
顔や手の傷はほぼ治っていたが、左眉と口の端だけは切れたせいで、ミミズ張りの跡が残っていた。二条は鏡で軽く確認してから、浮足立つ気分で歩を進める。
立て続けに商談が成立しなかった二回の教訓から、今回も覚悟していた。
だが、今日は違った。まともな相手で、商談はスムーズに成立したのだ。
吾妻が居ると分かっていても、二条は自然とホストクラブへ足を踏み入れていた。
閉店まで店に居座り、客が居なくなった後、壁際に立ち煙草を吸う。
夜風に混じる煙を吐きながら、吾妻が店から出てくるのを視界に捉えた。
「──龍臣君」
低い声で手をひらひらと振る。
本名で呼ばれる違和感に、二条は眉をひそめる。
前方には女が一人だけ。背後を見ても誰も居ない。
──なら、やはり前方の女が呼んだと判断するしかない。
「(……さっきの客だよな)姫、何で俺の名前を?」
怪訝そうに問う吾妻に、女はにやりと笑った。金色のウィッグを外すその動作で、視界が一変する。
「龍臣君、俺だよ」
──女じゃない。二条宗親だった。
「…アンタか。何だその格好、金髪似合わねぇな」
「え〜、結構気に入ってるんだけどなぁ」
久しぶりの会話だった。
口調はいつも通り軽口だが、二条の心は少しだけざわつく。吾妻を目の前にすると、無意識に声が低くなる。
なのに、吾妻は表情ひとつ変えず、静かに立っている。
──やはり、吾妻の存在は厄介だ。
つい目で追ってしまう自分に、舌打ちしたくなる。でも、二条はいつも通り胡散臭い笑いを浮かべてしまう。
吾妻と二条、二人だけの夜の時間が、静かに流れていた。




