三本勝負
白熱した試合であった。
世界の頂点を決する栄誉をかけた一戦であるから、手に汗握る激闘は、見る者すべてに約束されていた。実際、試合内容は丁々発止の攻防戦で、間断なく走る緊張のあまり、会場にいる誰もが息することも忘れていた。
甲乙つけられない二者の実力は、しかし、運不運の範疇としか言えないほどの紙一重の差によって、残酷に、かつ明白に、数値化されてしまう。
【2‐0】
現実と乖離した、冗談みたいな数字のひらきに会場全体が動揺した。最前列で観戦していた若い女の金切り声を口火に、あちらこちらで抗議の声が漏れはじめる。この二人の決着が【2‐0】であるわけがない。絶対に【2‐1】でなければならない。歴史的試合の目撃者たちは欠陥だらけのルールを呪い、ルールの手先である審判を憎悪した。
──神聖な試合が、つまらないルールと人でなしの審判によって穢された。
──我々は納得できない。我々は一体となって不服を申し立てる。
興奮さめやらぬ観客たちはルールにこだわる不徹底な審判を弾劾し、彼の改心に期待を寄せた。
まったく熱くなりすぎたのだ。
審判は人心をコントロールする神にでもなった気分で、興をさますため、台本に書かれたとおりの洗練された一文を読み上げた。
──さあ、いよいよ最終ラウンドです! 次の勝負を制した者に3ポイントを与えます!