第9話:閉ざされた街
父の死の真相を巡る中、ソルの警告が響く
ソルの警告に、アイリスははっと息を呑んだ。招かれざる客? まさか、ギルドの追手がもう来たというのか? クロックワークが去ってから、まだそれほど時間は経っていないはずなのに。
「急いで上へ戻るぞ、小娘!」
ソルはアイリスを促し、自身の炎の体を収縮させ始めた。巨大だった姿が、人間一人分ほどの大きさにまで小さくなる。それでもなお、圧倒的な熱量と存在感を放っている。
アイリスは頷き、よろめきながら立ち上がると、螺旋階段へと急いだ。ソルもまた、浮遊するように彼女の後を追う。
地下研究室の隠し扉を閉め、父の書斎を通って工房へと戻る。窓から外の様子を窺うと、アイリスは息を呑んだ。
街の様子がおかしい。
いつもなら、この時間でもちらほらと人通りがあるはずなのに、今はまるでゴーストタウンのように静まり返っている。そして、通りの角々に、見慣れない男たちが立っているのが見えた。彼らは皆、地味な色の私服を着ているが、その立ち姿や鋭い視線は、明らかに一般市民のものではない。精霊保安庁の私服保安官だ。
工房の周囲は、完全に包囲されている。
アイリスは慌てて工房に備え付けられた通信機に駆け寄った。外部に助けを求めるか、せめて状況を確認しなければ。しかし、スイッチを入れても、通信機はうんともすんとも言わない。ただ、ザーッというノイズが聞こえるだけだ。
「ダメ…通信が遮断されてる!」
ギルドは、情報統制と物理的な封鎖を同時に行っているのだ。彼らは本気だ。アイリスと、そしてソルを捕らえるために。
「フン、小賢しい真似を」
ソルは窓の外を睨みつけながら吐き捨てた。
「空気中の精霊エネルギーの流れが不自然だ。奴ら、この一帯に監視網か、あるいは結界のようなものを張っておるぞ」
高次精霊であるソルは、人間には感知できないエネルギーの流れを読み取ることができる。ギルドは、最新の精霊技術を使って、アイリスたちを完全に孤立させようとしているのだ。おそらく、ソルが封印から解放された際のエネルギー放出を探知されたのだろう。
焦りと絶望感が、アイリスの心を支配し始める。逃げ場はない。助けも呼べない。
工房の中は、まるで檻の中のようだ。
父が遺したこの場所が、今、自分を閉じ込める牢獄になろうとしている。
その時だった。
バン!バン!バン!
工房のドアが、外から激しく叩かれた。まるで破城槌で打ち付けるような、乱暴な音だ。
そして、拡声器を通した、冷たく非人間的な声が響き渡った。
「アイリス・ギアハート! および内部に潜伏する未登録高次精霊! 聞こえているか! 貴様らは完全に包囲されている! 全ての抵抗は無意味だ! 速やかに投降せよ!」
その声は、有無を言わせぬ最後通牒だった。
アイリスは顔面蒼白になり、ソルの燃える体を見上げた。
絶体絶命。
彼らは、完全に追い詰められたのだ。
あっという間に包囲されてしまったアイリスとソル!