第8話:死の真相?
父の死は事故ではなく、クロックワークによる殺人かもしれない――ソルの衝撃的な言葉。
アイリスはそれを受け入れられるのか?
「嘘よ!」
アイリスは、思わず叫んでいた。ソルの言葉は、あまりにも衝撃的で、受け入れがたいものだった。
「クロックワークさんが、父を殺したなんて…! そんな証拠でもあるの!?」
感情が高ぶり、声が裏返る。父は事故で死んだのだ。そうでなければ、この三年間、自分が抱えてきた悲しみや喪失感は、一体何だったというのか。
「証拠だと? 小娘、我を誰だと思っておる」
ソルは、呆れたように炎を揺らめかせた。
「我はソル。数千年の時を生き、数多の人間たちの栄枯盛衰を見てきた存在だ。人間の嘘や欺瞞など、火を見るより明らかよ」
尊大な口ぶりだが、その言葉には奇妙な説得力があった。
「トーマスとクロックワークは、かつては親友だった。だが、研究の方向性を巡って対立し、袂を分かった。トーマスは『共鳴』を、クロックワークは『制御』を求めた。水と油だ」
ソルは、まるで見てきたかのように語る。
「クロックワークは、トーマスの『感情共鳴理論』を危険視し、同時にその可能性に嫉妬していた。そして、トーマスが我のような高次精霊と契約し、新たな段階へ進もうとしていることを知り、焦りを感じていたはずだ。奴にとって、トーマスは邪魔な存在だったのだよ」
ソルの語る内容は、アイリスが断片的に知っていた父とクロックワークの関係性と一致する部分もあった。だが、それが殺人の動機になるというのか?
「でも…それだけじゃ、殺したっていう証拠にはならないわ!」
アイリスは食い下がった。信じたくなかった。父が、かつての親友に殺されたなんて。
「ふん、ならばこう考えろ」
ソルは、諭すような口調になった。
「なぜ、クロックワークは今日、わざわざお前の元へ来た? なぜ、お前の父の研究資料を、今になって回収しようとする? それは、お前が何かを知ることを恐れているからだ。お前の父が遺したものの中に、奴にとって不都合な真実が隠されているからに他ならん」
その指摘は、鋭くアイリスの胸を突いた。
確かに、今日のクロックワークの訪問は唐突だった。そして、彼の態度は明らかに何かを隠しているように見えた。父の死について尋ねた時の、あの僅かな動揺…。
(まさか、本当に……?)
信じたくない気持ちと、クロックワークへの拭いきれない疑念が、アイリスの中で激しくぶつかり合う。父への信頼。クロックワークへの不信感。そして、三年間抱き続けてきた、父の死への割り切れない思い。
「……分からない」
アイリスは力なく首を振った。頭が混乱して、何も考えられない。
「父さんは、ただ……」
ただ、精霊と人間がもっと分かり合える世界を夢見ていただけだ。人を傷つけるようなこと、誰かに殺されるようなことをする人じゃなかったはずだ。
議論が白熱しかけた、その時だった。
ソルが、ふと動きを止め、燃える双眸を鋭く細めた。巨大な炎の体が、警戒するように低く唸る。
「……む?」
「どうしたの?」
アイリスは、ソルの突然の変化に戸惑う。まだ彼の名前を呼ぶことには抵抗があった。
「…話は後だ。どうやら、招かれざる客が来たようだぞ」
ソルの声には、先程までの怒りや嘲笑とは違う、明確な緊張感が走っていた。彼は、その鋭敏な感覚で、研究室の外、地上にある工房の周囲に、複数の気配を察知したのだ。それも、尋常ではない、敵意に満ちた気配を。
ソルの指摘に揺れるアイリス。父の死の真相は闇の中…。
そして、話の途中で脅威の気配が!




