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第7話:契約と誤解

父トーマスとの関係、そしてソルの口から語られる衝撃の言葉とは…?

高次火精霊ハイ・スピリット・オブ・ファイアソルの燃える双眸が、アイリスを射抜(いぬ)いていた。その視線だけで、肌が()けつくようだ。

「そこにいるのは何者だ、小娘!」

ソルは威嚇いかくするように問いかけた。その声は、まるで溶岩が流れるような、熱く重々しい響きを持っている。

「答えよ! ここはどこだ? そして、トーマスはどこへ行った! あの我をこんなガラクタに封じ込めおった男は!」


トーマス。父の名だ。やはりこの精霊(せいれい)は、父と何らかの関係があったのだ。

アイリスは恐怖に震えながらも、必死で声を絞り出した。

「わ、私は……アイリス。アイリス・ギアハート。トーマスの……娘です」


「娘だと?」

ソルは意外そうな声を上げた。炎の体が、わずかに揺らめく。

「フン、あの朴念仁ぼくねんじんにも、人の子をすような真似まねができたとはな」

その言葉には、侮蔑ぶべつと、ほんの少しの驚きが混じっているように聞こえた。


「私は、ソル。高次の火を(つかさど)精霊(せいれい)だ」

ソルは尊大な態度で名乗った。

「お前の父、トーマスとは契約を結んでいた。我の力を研究に貸す代わりに、彼は我に新たな『器』を用意すると約束したのだ。まさか、奴が死んでからというもの、こんな粗末な魂函(こんばこ)に打ち捨てられるとは思わなかったがな!」


契約? 父が、高次精霊(ハイ・スピリット)と契約を? 初めて聞く話だった。父は一体、何をしようとしていたのか。


「父は…トーマスは、もういません」

アイリスは、震える声で告げた。

「三年前に…亡くなりました。実験中の事故で…」


その言葉を聞いた瞬間、ソルの巨大な炎の体が、嘲笑ちょうしょううかのように激しく揺れた。

「事故だと? フハハハハ! 馬鹿な! あのトーマスが、そんな間抜けな死に方をするものか!」

ソルは哄笑(こうしょう)した。その笑い声は、怒りを含んで研究室に響き渡る。

「あの男は、確かに朴念仁で、世間知らずで、時に愚かしくもあったが、こと研究に関しては、誰よりも慎重だった。おのれの限界も、危険性も、誰よりも理解していた。そんな男が、ただの事故で死ぬなど、ありえん!」


ソルの断定的な言葉に、アイリスは混乱した。父の死は事故だったはずだ。ギルドの公式発表もそうだった。けれど、心のどこかで抱いていた疑念が、ソルの言葉によって再び頭をもたげてくる。

「で、でも…ギルドはそう発表しました…」


「ギルドだと? フン、あの利権にまみれた俗物どもか」

ソルは吐き捨てるように言った。

「奴らが何かを隠していると見るのが妥当だろうな。特に…あの男が関わっているのなら尚更なおさらだ」


「あの男…?」

アイリスが問い返すと、ソルの炎が一際ひときわ強く燃え上がった。その色に、明確な敵意が宿る。

「今日、私の工房に来た人のこと…?」

アイリスは、先程の訪問者のことを口にした。クロックワークと名乗った、あの義眼の男。


「ほう? 来たのか、奴が」ソルの炎が興味深そうに揺れる。「ならば話は早い。その男…ビクター・クロックワーク。あの、冷たい鉄屑のような義眼の男だ」

ソルは、憎々しげにその名を口にした。

「奴は、トーマスの研究を、そして我の力をも利用しようとしていた。トーマスが死んだというのなら、十中八九、あの男が手を下したと見るべきだ」


クロックワーク。やはり彼なのか。

父の死に、彼が関わっている…?

アイリスの頭の中で、バラバラだった疑念のピースが、一つの恐ろしい形を結び始めようとしていた。

ソルの口から語られた、父トーマスとクロックワークの関係、そして父の死への疑惑。

父の死の真相を巡り、二人の意見がぶつかります。

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