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第17話:荒野の追跡劇

レムリアを脱出したアイリスたちを、早くもギルドの追手が捉えました。

しかも相手は手強い特殊班。荒野での逃走、そして避けられない戦闘。

『…追手の気配がするぞ。少なくとも三人。足取りからして精霊保安庁スピリット・セキュリティ・エージェンシーの特殊班だろうな。それも、かなり手強い奴らだ』

ソルの警告が、アイリスの頭の中に直接響いた。首に下げたアミュレットが、彼の警戒心に呼応するように、わずかに熱を帯びている。

アイリスとマーカスの間に、再び緊張が走った。レムリアを脱出してまだ数時間しか経っていないというのに、もう追いつかれたというのか。ギルドの追跡網は、想像以上に広範囲かつ迅速だ。


「どんな連中だ、火精霊(かせいれい)様?」

マーカスがアミュレットに向かって小声で尋ねた。彼の声には、先の敬意は保ちつつも、状況の切迫感が滲む。


『数は少ない。おそらく三人。だが、動きが異様に速い。まるで地面を滑るように接近してくる』ソルの声には焦りの色が混じる。『そして、妙なエネルギーパターンを感知する。精霊技術スピリット・テクノロジーで強化された特殊装備をまとっている。並の保安官レギュレーターではないぞ』


特殊班。精霊保安庁スピリット・セキュリティ・エージェンシーの中でも、特に危険な任務を扱い、最新鋭の装備を持つという部隊。その存在は噂には聞いていたが、まさか自分たちが追われることになるとは。


「隠れられそうな場所は…?」

アイリスが周囲を見回すが、見渡す限りの荒涼(こうりょう)とした荒野だ。月明かりに照らされた大地には、時折、風化した岩や、古代の遺跡らしき瓦礫(がれき)が点在するだけ。身を隠せるような場所は少ない。


「あそこだ!」

マーカスが、少し離れた場所にある、崩れかけた古い見張り塔のような遺跡を指差した。第一時代のものだろうか、石造りの塔が半分ほど崩れて残っている。

「一時的に身を隠すには十分だろう。それに、地の利も多少は活かせるかもしれん」


三人は足早に遺跡へと向かい、崩れた壁の陰に身を潜めた。息を殺して待つ。心臓の音が、嫌に大きく聞こえる。冷たい夜風が、緊張で汗ばんだ肌を撫でた。


やがて、地平線の彼方から、三つの影が猛スピードで近づいてくるのが見えた。彼らは、ソルの言った通り、まるで地面を滑るかのように高速で移動している。足元には、精霊エネルギー(エーテル)で駆動する特殊な走行装置――車輪と浮遊機構を組み合わせたようなもの――『地走(じばし)四駆(よんく)』を装着している。


「あれは…『地走(じばし)四駆(よんく)』か。保安庁の偵察強襲部隊が使う装備だ。厄介だな…」

マーカスが苦々しげにつぶやいた。


追手は、アイリスたちが隠れている遺跡の近くで足を止めた。彼らは黒一色の戦闘服に身を包み、顔は暗視ゴーグル付きのヘルメットで隠され、表情はうかがえない。その装備は、通常の保安官レギュレーターのものよりも明らかに高性能で、威圧感を放っている。一人が、腕に取り付けられたタブレット型の装置を操作し始めた。高感度の精霊探知機(スピリットセンサー)だ。


『まずいな。あれは最新型だ。アミュレットの遮蔽しゃへいも、長くはもたないかもしれん』

ソルの焦った声が響く。


案の定、装置が遺跡の方角に鋭い反応を示した。追手の一人が、短く、鋭い声で叫ぶ。

「発見! 対象は遺跡内部! 包囲、攻撃開始!」

三人の追手が、一斉に武器――精霊エネルギー(エーテル)を圧縮して撃ち出す最新型のライフル――を構え、遺跡へと突入してきた。その動きには一切の躊躇(ためら)いがなく、冷徹な機械のようだ。


「やるしかない!」

マーカスは覚悟を決め、懐から古風な短杖(たんじょう)を取り出した。それは、古道派(オールドパス)が使う「調律杖チューニング・スタッフ」に似ているが、より戦闘的な装飾が施されている。杖の先端の結晶が、彼の意志に応えるように微かに光る。

アイリスも、腰に下げた工具袋から、父の遺品である改造したボルトガンを取り出す。


開けた場所での戦闘は不利だ。アイリスは咄嗟とっさに地形を利用することを考えた。

「マーカスさん、あの崩れそうな壁を! アミュレットの中の人、砂煙をお願い!」

アイリスが叫ぶ。彼女はまだ、ソルの名を呼ぶことに抵抗があった。


マーカスは短杖(たんじょう)で遺跡の壁の一部を叩き、共鳴(きょうめい)によって振動させ、落石を引き起こす。同時に、アミュレットから解放されたソルが、

『フン、指図するな! だが、今は仕方あるまい!』

と悪態をつきながらも、限定的ながら炎を放ち、地面の砂を巻き上げて目くらましを作る。


追手たちは一瞬怯ひるんだが、すぐに体勢を立て直した。彼らは訓練された精鋭だ。落石をたくみに避け、砂煙の中からエネルギー弾を正確に撃ち込んでくる。弾が遺跡の壁に当たり、石片が飛び散る。


「くっ!」

アイリスは壁に身を隠しながら、ボルトガンで応戦する。彼女の狙いは正確だが、相手の動きは素早く、なかなか当たらない。

ソルの炎も、相手が展開した携帯型のエネルギーシールドにはばまれ、決定打を与えられない。シールドは薄いが、高次精霊(ハイ・スピリット)の炎さえも一時的に受け止める強度を持っているようだ。


「連携するぞ、アイリス!」

マーカスが叫び、短杖(たんじょう)で地面に円を描くと、地面から土の壁が隆起(りゅうき)し、一時的な遮蔽物しゃへいぶつを作り出した。その隙に、アイリスがボルトガンの出力を最大にし、エネルギーシールドの一点に集中攻撃を浴びせる。青白い光線が、シールド表面で激しく火花を散らす。

「今だ、炎の!」

アイリスが叫ぶ。


『だから指図するなと…!』

ソルは文句を言いつつも、シールドがわずかにひび割()れた瞬間を見逃さず、その隙間から追手の一人へ炎を叩き込んだ。

「ぐああ!」

短い悲鳴を上げて、一人が地面に倒れる。戦闘服が発火し、焦げ臭い匂いが漂う。


残るは二人。しかし、こちらも無傷ではない。マーカスは肩を撃たれ、腕を押さえている。ソルもエネルギーをかなり消耗しているようで、炎の勢いが明らかに落ちている。アイリスのボルトガンも、エネルギー残量を示すゲージが危険域に入っていた。


「撤退する! 奴らは予想以上に手強い! 本隊の到着を待つ!」

追手の一人が叫び、倒れた仲間を抱えて素早く後退していく。彼らは深追いを避け、一旦引くことを選んだようだ。地走(じばし)四駆(よんく)に乗り込み、あっという間に距離を取っていく。その撤退判断の速さも、彼らがただの兵士ではないことを示していた。


「…行った、か?」

アイリスは息を切らしながら、遠ざかる追手の姿を見送った。戦闘の高揚感の後、どっと疲労感が押し寄せる。足が震える。

「ああ、だが、油断はできん。奴らは必ず戻ってくる。それも、もっと大勢でな」

マーカスは肩の傷を押さえながら、苦々しげに言った。

「それに、我々の位置も完全に特定されただろう。もはや隠れることは意味がない。進むしかない」


一時的に追手を退けることには成功したが、状況は悪化した。アイリスもソルも、そしてマーカスも、少なくないダメージと消耗を負っている。

「とにかく、今はここを離れよう。少しでも距離を稼がなければ」

マーカスは痛みをこらえながら立ち上がり、歩き始めた。


アイリスは、改めて追手の執拗しつようさと、ギルドの組織力の恐ろしさを実感していた。星見の塔スターゲイザー・タワーへの道のりは、想像以上に険しいものになりそうだ。

ふと空を見上げると、遠くの空に、小さな黒い点が移動しているのが見えた。先程も見たような気がする。鳥だろうか? いや、違う。あれは……ギルドの小型飛行偵察機だ。ずっと、監視されていたのだ。

アイリス、ソル、マーカスの連携でなんとか追手を退けましたが、消耗も激しく、状況は悪化…。

彼らはさらに危険な領域「灰色荒野(グレイ・ウェイスト)」へと。

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